台北高等行政法院判決
【判決番号】2003年度訴更一字第19号
【判 決 日】2004年01月08日
【裁判事由】実用新案特許無効審判
判決書摘要
主文
訴願決定及び原処分をすべて取り消す。
再審の訴訟費用及び再審前の訴訟費用はすべて被告の負担とする。
事実概要:
原告〔志上興業有限公司〕は1995年11月2日、「防水シート構造の改良」に関する考案について、被告官庁〔経済部知的財産局〕の前身、経済部中央標準局に実用新案特許を出願した。この出願は第84215653号として審査され、実用新案特許を許可するものと認められ、公告期間の満了後、実用新案特許第112459号として証書が交付された(以下係争案と称する)。その後、参加人〔廖紘志〕は、係争案に対し、実用新案特許の要件を満たしていないとして、審査を経て1990年9月21日に公告された第75104867号発明特許案「密閉式開削の地下工程における防水シートを主体側壁に貼り付ける防水工法」(以下引例1と称する)、南亜塑膠工業股份有限公司が1992年5月に印刷した製品カタログ(以下引例2と称する)、南亜塑膠工業股份有限公司の日付の記載がないエンボスロール製品カタログ(以下引例3と称する)、信源建材機構PVC防食ライニング製品カタログ(以下引例4と称する)、防食用T型ライニング・プラスチックシート製品カタログ(以下引例5と称する)、経済部商品検験局(1999年1月26日標準検験局と改称)が1994年6月16日に受理したPVC・T型ライニング・プラスチックシートの試験報告書(以下引例6と称する)を引用して、無効審判を請求した。被告は、無効審判請求を審査し、係争案の技術特徴は、引例4、5、6に開示された技術内容を超えるものではなく、かつ効果を増進するものでもないので、係争案は進歩性がなく、特許法第98条第2項の規定に違反するとして、2000年5月3日(89)智専三(3)06007字第0898900757号実用新案特許無効審判決定書をもって、「審判請求成立・実用新案特許権取消」の処分をした。原告は不服のため、訴願及び行政訴訟を提起したが、いずれも棄却されたので、上訴を提起した。最高行政法院は、原判決を取り消し、審理を本院に差し戻す判決をした。
理由
3、本院の見解:
- 因みに実用新案とは、物品の形状、構造又は装置に係る創作又は改良をいう。これは係争案の審査・許可時の特許法第97条の明らかな規定である。したがって、実用新案は形体上の創作性に重点を置くものであり、たとえ応用の原理が同一、作用の目的が同一であっても、その構造上の設計に差異があるときは、新規の考案と認められるものである。このため、二の考案が同一であるか否かを判断するときは、その目的、形状、構造、効果等について全体観察を行い、そのいずれかが異なるときは、同一の考案に該当しないものである。すなわち、実用新案に応用されている手段が原理において完全に新規ではなく、慣用技術を応用したものであっても、その三次元空間における形体が新規の創作であり、かつ本来の物品の形状、構造又は装置と比較した場合において、当該物品のある部分の特殊な効果を増進することができるときは、これを実用新案特許の要件を満たすものと認定しなければならない(改制前行政法院1982年度判字第608号、1989年度判字第516号及び1979年度判字第499号判決要旨参照)。また、「出願前の既存技術又は知識を応用した考案であって、当該技術に習熟する者が容易に完成することができ、かつ効果を増進できないものについては、前項〔特許法第98条第1項〕に定める事由がない場合であっても、この法律により出願をし実用新案特許を取得することができない」というのは、特許法第98条第2項の明らかな規定である。すなわち、実用新案特許出願については、出願前の既存技術又は知識を応用した考案であって、当該技術に習熟した者が容易に完成することができ、かつ効果を増進することができない場合に、はじめてその進歩性を否定することができ、これに反して、出願前の既存技術又は知識を応用したものではないが、当該技術に習熟した者が容易に完成できる考案であっても、又は出願前の既存技術を応用したものであり、かつ当該技術に習熟した者が容易に完成できる考案であっても、効果を増進することができる場合には、なおも「実用新案特許」を許可することができるものである。
- 係争案の権利請求の範囲は次のとおりである。防水シート、特に防水工程に専門に使用される防水シートの構造の改良であって、次の特徴を有するもの。該防水シートの一方の表面が光沢を有する設計となっており、他方の表面が不規則に凹凸した柱状の構造であり、凹凸の柱状の設計によりコンクリートに不規則な定着力を与えることができ、防水シートとコンクリートが一体となって一つの滑落しない層を形成するもの。引例4は、信源建材機構発行のPVC防食ライニングのカタログである。このカタログには、発行日の記載がない。その内容は、揚水ポンプステーション及び汚水処理工場にPVC防食片を用いた表層防食工程の実景、生産状況、工程の必要に対応する大きさにPVC防食片を加工する実景、PVC防食片の適用範囲、PVC防食片の化学的性質、標準的効果及び規格の開示であって、防食、すなわち、コンクリート管、コンクリート構造物に嵌入して表層を保護すること(コンクリート管の腐食を防止すること)がその製品の効果であることが強調されており、また、T型キー溝、ダイアモンドキー溝、ハンダ付けテープ等の規格の製品があるとの記載がある。引例5は、防食用T型ライニングプラスチックプラスチックシート製品のカタログである。このカタログには、発行者、発効日の記載がない。このカタログの前言第一段、第2段の要旨は、次のとおりである。該防食片は、水中の化学物質、硫化水素(H2S)が硫酸(H2SO4)に変化してコンクリート水道に重大な浸食をもたらし、そのために下水道が崩壊し又は閉塞するのを防止する。したがって、該製品の設計の目的は、下水道の浸食、崩壊を防止することにある。引例6は、経済部商品検験局の試験報告書である。これは、豊順営造股份有限公司が施主の要求により同局に依頼したPVC・T型ライニングプラスチックシートの耐食試験の報告書である。この試験報告書には、試験依頼の受理日1994年6月16日」及び物品名称「PVC・T型ライニングプラスチックシート」が記載されているが、物品の形状、構造、装置の内容についての開示はない。
- 上述により明らかなとおり、引例4、5,6はすべてT型防食ライニングシートに関するものであるので、引例6の試験報告書の物品名「PVC・T型ライニングプラスチックシート」及び試験依頼受理日の記載を引例4及び引例5と結合した場合、T型防食ライニングプラスチックシートは係争案の出願日前にすでに公開されていたと認定することができる。ただし、該防食ライニングプラスチックシートは、プラスチックシートの一つの面にT型の「細長い」キーを凸設してリブを設けることにより、コンクリートとの結合力を増強するものであるが、プラスチックシート自体にはコンクリートとの凝結力がないため、リブと凝結後のコンクリートの接触部位に多数の平行状のくぼみ(隙間)が形成され、凝結の強度を弱め、亀裂を生じさせるおそれがある。これと相反して、係争案「防水シート構造の改良」では、「防水シートの一つの面が不規則に凹凸する柱状の構造であるため」、コンクリートとの凝結・成形後に不規則な嵌合の状態で固定され、過大な長さの隙間が生じるおそれがなく、前記のT型の細長い凸状のリブに長い平行状のくぼみが生じるのを回避することができる。また、「細長い」リブ状の場合には、単一方向のみに凝固の効果が生じるものであるが、「不規則に凹凸する柱状」の場合には、異なる方向に凝固の効果が生じ、その凝固力がより強力であるのは明らかである。これは、原告の依頼により台湾科技大学材料科技研究中心が作成した第900619号試験報告書及び土木技師謝俊豪の作成した分析図表により明らかである(本院前審ファイル第88ページから第92ページまで、及び本院ファイルの原証一、二参照)。前記第900619号試験報告書によると、厚さ5センチ、長さ10センチ、幅10センチのコンクリートのテストサンプルで試験をした結果、柱状防水シートとT型防水シートの効能上の違いは次のとおりである。1.耐荷重(引裂強度):T型防水シートのテストでは、標準テストサンプルの80%まで低下し、柱状の防水シートのテストでは、耐荷重が標準テストサンプルの場合と同じであり、すなわち、T型防水シートでは、全体の耐荷重が20%低下するが、柱状の防水シートでは、耐荷重になんら影響が生じない。2.「抑止力」については(「抑止力」とは、横方向又は縦方向の摩擦に対抗する力をいう)、T型防水シートの場合、コンクリートのテストサンプルの横方向に滑動が生じないが、縦方向に滑動が生じる。柱状防水シートの場合、横方向又は縦方向を問わず、滑動は生じない。すなわち、T型防水シートの場合は、「抑止力」が本来の半分まで低下するが、柱状の防水シートの場合は、「抑止力」になんらの変化もない。これはT型防水シートの「抑止力」が柱状防水シートの半分に過ぎないことを明確に示している。防水シートの構造性(影響率)からみた場合、T型防水シートでは、構造の効果が20%減少するが、柱状防水シートでは、構造の効果に影響が生じないものである。土木技師謝俊豪が作成した分析図表も同一の結論を示している。また、第900619号報告書の製作者・邱顕堂教授は出廷して次のとおり証言している。「1、原告が私に試験を依頼した柱状防水シートの「抑止力」は係争案の実用新案特許明細書に従って作成したものであり、また、T型防水シートは引例5、6、7と同じ形状のものである。2、柱状防水シートの「抑止力」、耐荷重、構造性はすべてT型防水シートよりも優れており、T型防水シートの場合は、耐荷重が20%減少し、また、地震があるときは、縦方向に滑動する(コンクリート層から離脱する)。(詳細は試験報告書のとおり)。3、両者に用いられたテストサンプル及び防水シートサンプルのサイズは同じである。」また、謝俊豪は出廷して次のとおり証言している。「原告は、T型防水シートと柱状防水シートの図形を提出して私に学理上の計算を依頼した。柱状のシートは係争案の権利請求範囲に従って製作したものであり、T型シートは引例5、6、7と同じものである。私は、同一材質及び同一サイズの物体について学理上の分析をしたのである。」
被告代理人は質問に答えて、「邱顕堂の試験報告書が同一材質及び同一サイズの試料に基づくものである以上、特に意見はない」と述べている。また、係争案の「不規則的な凹凸状の構造」と引例4、5,6のT型シートの「細長い」突出したリブを比較した場合、耐荷重、「抑止力」、構造性すべてについて顕著な違いがあり、確実に防水シートとコンクリートの混合強度を増進する効果がある。冒頭の説明に基づいて考量した場合、係争案は、その応用する原理が新規ではないが、三次元空間における形体において新規な創作に属するので、新規性を有するものであり、また、先行技術に比べて形体、装置においてある部分の特殊な効果を増進するものであるので、進歩性を有するものと認定しなければならない。 - 原告は、T型シートの「細長い」突出したリブとコンクリートの凝結後における排水の効果について、その本体の単一の方向に配置されたリブの制限により、水分を単一の方向にのみ排除することができ、水量が比較的多いときは、排水効果が不良であるため、積水、欠失の状況が生じ、別に排水片を付加する必要があると主張している。また、原告は、「不規則な凹凸の柱状」の構造により、排水の効果が多方面に及ぶため、阻害を受けることなく、排水不良により積水現象が生じるおそれがなく、排水片の付加を要せずに良好な排水の効果を達成できることを主張し、証拠として経歴豊かな水利技師鄭茂寅の比較評価報告書を提出している。しかし、特許法第103条第2項は、「実用新案特許の範囲は、明細書に記載された権利請求の範囲を規準とし、必要な場合には、明細書及び図面を参酌することができる」と規定している。係争案の権利請求の範囲、明細書及び図面には「不規則な凹凸の柱状」の構造が排水の効果を増進できることについての開示がなく、また、その考案の説明及び具体的な実施例の記載によると、該防水シートの「不規則な凹凸の柱状」の表面はトンネルの中間に面しており、該凹凸の柱状表面からセメント又はコンクリートが噴き上げられ、トンネルの水流は防水シートの別の面に外側で阻止され(トンネルの外側に)排出されるので、排水の効能は係争案の「不規則な…凹凸の柱状の構造」の技術的特徴ではなく、これを論究し引例と比較する必要はない。
参考資料
除七冠,特許実体審査不服事件行政訴訟手続における鑑定報告実務の研究,智慧財産月刊,2005年5月。
