I . 前言
衆目を集めている「タミフル」特許に対する強制実施の許可申請について、経済部知的財産局は、公共衛生専門家、法律家及び両当事者の代理人を集めて2回の意見聴取を行った後、条件付きで強制実施を許可する決定をした。
「知的財産権の貿易の側面に関する協定」(TRIPS)第31条(b)の規定及びわが国特許法第76条の規定により、国の緊急事態に対応するため、会員国は、特許の強制実施を許可することができ、また、「公共衛生に関するドーハ宣言」により、国の緊急事態の認定については、各会員国が自国の客観的情勢に基づいて決定を行うものである。
II. 特許強制実施の許可理由
- 鳥インフルエンザの台湾に対する脅威の接近
世界保健機構は、鳥インフルエンザの爆発的な大流行の時期がすでに間近に迫っていることを繰り返し警告している。わが国では、まだ鳥インフルエンザの症例が発見されていないが、台湾は地理的に渡り鳥の移動において必須のルートにあたる。そのうえに台湾と中国及び
東南アジア各国は、観光・通商のため住民の往来が頻繁であり、これらの地域では2005年11月28日までに133人が感染し、68人が死亡している。したがって、台湾において鳥インフルエンザの脅威はすでに間近に迫っており、政府の衛生主管官庁はこれに対して周到な準備をする必要がある。 - 抗ウイルス薬の充分な備蓄の必要性
わが国衛生署は2003年から度々スイスのロッシュ社から備蓄のために鳥インフルエンザの治療薬を購入しているが、各国とも同時に大量に購入しているため、同社の供給が各国の需要に対応できなくなっている。また、わが国は、全世界にわたる防疫の需要に応え、病疫の蔓延を急速に防止するため、ベトナムに6万人分のタミフルを無償提供した。このためわが国の現在の在庫は台湾の総人口の0.7%分に過ぎない。これはWHOが勧告している人口の10%(230万人分)の在庫の確保にはるかに及ばない数量であり、このような薬品不足の状況で防疫の効果を挙げるのは極めて厳しい。衛生署は疫病流行の情勢の緊急性を考慮して、当該特許の強制実施の申請をしたのである。ロッシュ社は2005年11月24日、2006年6月末までにカプセル及び原料を含めて230万人分のタミフルを提供すると表明したが、衛生行政の最高機関である衛生署及び公共衛生防疫の専門家は一様に、一旦鳥インフルエンザが早期に爆発的に流行した場合、ロッシュ社が直ちに抗ウイルス薬を充分に提供するのは不可能であり、わが国国民の生命の安全を脅かすおそれが極めて高いと認定している。また、台湾は世界保健機構の会員国ではないので、一旦爆発的に全世界で又は広域的に鳥インフルエンザが流行した場合、世界保健機関が備蓄している抗ウイルス薬の提供を受けるのはおそらく不可能である。防疫上の必要性、製造販売業者から提供される数量の不確実性から生じるリスク及びわが国の国際的立場の特殊性を合わせて考量した場合、わが国は鳥インフルエンザに対応するために自主的に充分な抗ウイルス薬を備蓄する手段を迅速に図る必要がある。
III. 知的財産権の尊重と国の防疫上の需要のバランス
わが国はWTO加盟国としてTRIPSの関連の規定に従ってわが国で特許権を取得した者に対しては何人を問わず充分な保護を与えている。本件特許の強制実施は、わが国の防疫上必要であり、緊迫した事情を有するものである。しかし、権利者の利益についても充分な配慮をする必要があるので、本件特許の強制実施申請は、下記の条件を付して許可することにした。
- 強制実施の期間は2007年12月31日までとする。
- 強制実施により製造される産品は国内の防疫上の需要のみに提供されるものとする。
- 衛生署は、権利者の提供した薬剤を優先的に使用し、権利者が「タミフルカプセル又はその原料を充分に供給できない場合にのみ、はじめて強制実施許可に基づいて製造した産品を放出することができるものとする。
- 強制実施期間中に衛生署が権利者自身から実施の許諾を受けた場合、特許主務官庁は本件強制実施許可を廃止することができる。
- 特許法第76条第5項の規定により、衛生署は補償金を支払わなければならない。
衛生署は、「タミフル」薬品の強制実施を許可された後、国内の適格の製薬工場に製造を委託することができる。ただし、上述条件第3項により、衛生署の委託を受けた工場が本件実施許可に基づいて製造する「タミフル」薬品は、権利者が提供する数量が防疫上の必要に迅速に対応するのに不充分である場合にのみ、衛生署が国内の防疫のために使用できるものとする。第5項の補償金については、わが国特許法の規定により、まず両当事者が協議を行い、合意を達成できない場合にはじめて知的財産局に裁定を申請する。上述の制限条件は、充分に権利者及びロッシュ社の商業上の利益を考慮に入れて定めたものであり、また、衛生署が本件強制実施により製造される薬品の使用について統括の責任を負うので、権利者の利益を損なうことはない。
過去の経験から見て、疫病の流行には国境がないので、防備に欠落があってはならない。したがって、全世界の公共衛生を維持する責任を分担するため、わが国は一日も早くWTOに加入できることを望んでいる。知的財産権を尊重し保護するわが国のこれまでの政策にはなんらの変更もなく、経済部知的財産局は権利者の権益と国の防疫上の基本的な需要状況を充分に考慮したうえで、上記のとおり条件を付して本件特許の強制実施を許可したのである。
