商標行政判決:最高行政法院(台湾)
外国語商標の誤認混同のおそれの判断
誤認混同のおそれの有無は異議決定時の事実を判断基準とする
台湾知的財産局のウェブサイトには司法判決のページがあり、特許(発明、実用新案、意匠)と商標の民事、刑事、行政判決の要旨が掲載されている。
以下は、アルファベットからなる商標の混同誤認のおそれを争点とした最高行政法院の判決要旨の訳文である。
最高行政法院判決 (100年度判字第520号)
判決書日付:2011年4月14日
争点:「誤認混同のおそれ」の判断
係争商標:登録第1336535号
係争商品/役務:化粧品、ジェル、香水等の商品
係争の根拠となる商標:登録第506312号、登録第527012号
関係条文:商標法第23条第1項第13号
上訴人 :林荃企業有限公司
被上訴人:経済部知的財産局
参加人 :株式会社アルソア本社(日本)
判決要旨
- 係争商標と異議申立根拠となる商標の両者が使用している文字は何れも外国語で、我が国の国民が慣用する文字ではない。当然、全ての国民が購買時に正確に発音し、正確に識別できると期待することはできない。
その上、係争商標と異議申立根拠の商標の両者は構成する文字数が何れも5字で、その中で対応する位置が完全に同一なのが前後の「A」の文字、位置が類似するのが中間の「S、O」の文字で、突然目にしたときに類似の文字が4字に及び、消費者が時と場所を異にして観察した時に誤認しないよう防ぐのは難しい。 - 誤認混同のおそれの有無は、係争商標の異議決定時の事実を判断基準とする。
判決抜粋
- 本件事実
上訴人は、商標法施行規則第13条に規定される商品及び役務分類表、第3類の化粧品、ジェル、香水等の商品を指定した「ANOSA」商標を2008年1月29日付で被上訴人に登録出願した。審査を経て登録第1336535号商標(以下、係争商標)として許可された。
その後、参加人は係争商標が異議申立根拠となる登録第506312号及び第527012号「ARSOA」商標(以下、異議申立根拠商標)に類似し、係争商標の登録は商標法第23条第1項第12号、第13号及び第14号の規定に違反するとして、異議を申し立てた。
被上訴人は審議の結果、2009年10月12日付中台異字第980123号商標異議決定書で係争商標を登録取消処分とした。
上訴人は不服として訴願を提起した。訴願は棄却されたが、上訴人は猶も承服せず原審裁判所に行政訴訟を提起した。原審裁判所は参加人に本件の被上訴人に対する訴訟に独立参加するよう命ずる裁定を行った後、再び棄却した。
上訴人は依然不服として、本件上訴を提起した。 - 本件の争点
両商標が類似を構成し、且つ関係消費者に誤認混同を生じさせるおそれがあり、商標法第23条第1項第13号の規定が適用できるか否か。 - 判決理由
- 係争商標と異議申立根拠商標は、両者ともに「A、S、O、」の文字を有し、且つ、両者の最初及び最後の文字は「A」である。発音について言うと、両者の始めは「Y」[訳注:「あ」の発音を表す台湾式の発音記号]の音で、最後も「Y」である。普通程度の知識と経験を有する消費者が、普通程度の注意を払って購買するとき、両者の商品が同一の出所である、又は同一ではないが関係がある出所であると誤認する可能性が確実にあり、類似商標に属する。
また、係争商標と参加人の異議申立根拠商標は、最初の発音が何れも「Y」であり、最後の音も共に「Y」であって、係争商標と異議申立根拠商標に使用されている文字は何れも外国文字で、我が国の国民が慣用する文字ではない。当然、全ての国民が購買時に正確に発音し、正確に識別できると期待することはできない。
その上、係争商標と異議申立根拠商標の両者は構成する文字数が何れも5字で、その中で対応する位置が完全に同一なのが前後の「A」の文字、位置が類似しているのが中間の「S、O」の文字で、突然目にしたときに類似の文字が4字に及び、消費者が時と場所を異にして観察した時に誤認しないよう防ぐのは難しい上訴人は上訴時、原判決では無関係の中国語商標「安奈杉」(発音:An-Nai-Shan)を強引に係争のAnosa商標の発音としたが、その理由を説明しておらず、また証拠を提示せず異議申立根拠のARSOA商標の中国語を「安露莎」(発音:An-Lu-Sha)と認定し、「安奈杉」と「安露莎」の発音は類似し、「Anosa」と「ARSOA」の発音も類似すると認定したのは直接証拠の原則に違反し、判決には理由不備の違法等々があると反対意見を述べたが、当然採用することはできない。
商標法第23条第1項第13号は、消費者が混同誤認を生じるおそれについての「誤認混同のおそれ」の判断に関し、参考にできる要因として商標の識別性の強弱、商標の類否及びその類似の程度、商品/役務の類否及びその類似の程度、先行権利者の多角化経営の状況、誤認混同の実例、各商標に対する関係消費者の熟知の程度、係争商標の出願人が善意か否か、その他の誤認混同の要因が含まれる。
但し、各要因の斟酌の必要性及びその程度は、何れも個々の案件の具体的内容によって決まるもので、各要因全てを参考にし、論述して始めて適法となるのではない。本件の原審では既に係争商標と異議申立根拠商標の両者の識別性を審理、斟酌した。
異議申立根拠商標は比較的早くから我が国の市場に出回り、比較的早くから我が国の消費者に知られているのは明らかであり、異議申立根拠商標の識別性は比較的強い。且つ、両商標の文字構成もまた類似度が高く、指定商品又は役務類別も類似する等の関連する要因がある。
これ等に基づき、係争商標と異議申立根拠商標の両者について、関係消費者が両者の商品は同一の出所である、又は同一ではないが関係がある出所であると誤認し、誤認混同が生じるおそれ等の状況は明確であると認定する。
また、本件における誤認混同のおそれの有無は、係争商標の異議決定時の事実を判断基準とする。上訴人は本件の原処分後、上述した要因の判断基盤が変わったが、原審で審理、斟酌しておらず、法に違反する部分があると指摘しているのは、誤った解釈に属する。 - 商標は個別に構成態様及びその他の審査、斟酌要因を審査する。基づく案件の内容は各々異なるので、商標審査個別案件拘束の原則(案件毎に審査を行い、他の案件に拘束されない)に基づき、当然、比較、引用はできない。上訴人が、「ANESSA」及び「ANNOZA」の商標事例を引用して、原審は平等の原則に違反すると主張した部分についても採用できない。
また、商標異議申立制度は公衆の審査を利用するものである。商標の登録に商標法の登録を付与しない事由があれば、第三者が異議申立手続きを通して登録を取り消すことができ、商標法に商標登録を取り消すことができる手続が明確に定められている。
上訴人が出願した係争商標の登録は、法に基づき異議申立段階で審議された。係争商標に登録を付与した被上訴人に信頼保護の原則の適用を認め、異議申立段階で係争商標は取り消せないとすることはできない。
- 係争商標と異議申立根拠商標は、両者ともに「A、S、O、」の文字を有し、且つ、両者の最初及び最後の文字は「A」である。発音について言うと、両者の始めは「Y」[訳注:「あ」の発音を表す台湾式の発音記号]の音で、最後も「Y」である。普通程度の知識と経験を有する消費者が、普通程度の注意を払って購買するとき、両者の商品が同一の出所である、又は同一ではないが関係がある出所であると誤認する可能性が確実にあり、類似商標に属する。
- 判決結果
原判決は、係争商標に商標法第23条第1項第13号に規定する登録できない事由があるとした。被上訴人が行った商標取消処分は不適法ではなく、訴願決定を維持したことにも誤りはない。上訴人の原審における訴えを棄却したことは上述説明に基づき適法である。上訴の論旨で、原判決に誤りがあると指摘して破棄するよう求めたが、理由は認め難く、棄却すべきである。
(以上)
第23条 第1項 第13号
次に掲げる事由の一つに該当する商標は、登録をすることができない。
13 同一又は類似の商品又は役務を指定した他人の登録商標又は先願商標と同一又は類似であり、関係消費者に誤認混同を生じさせるおそれがあるもの。ただし、当該登録商標又は先願商標の所有者の同意を得て出願したものは、二者の商標及び指定商品又はサービスが均しく同一である場合を除き、この限りでない。
