特許権者が特許法の表示義務に違反した場合の法律上の効果(台湾)

特許権者が特許法の表示義務に違反した場合の法律上の効果(台湾) 1

台湾では、特許法第79条で発明特許に係る物品又は包装に特許番号を表示することが義務づけられており、表示しなかった場合、侵害者に対し損害賠償を請求できないと規定している。また、この条文は実用新案特許、意匠特許に準用されている。

知的財産局ウェブサイトの、本年9月5日付電子報の法律に関する頁に、実用新案権の侵害は認められたものの特許表示義務を果たしたことが認められず、損害賠償の請求が棄却された判例の要約とその説明が掲載された。

以下はその訳文である。

電子報掲載日:2011年9月5日

甲は、2002年3月に特許権を取得して以来、販売する商品全てに特許表示及び特許証書番号を付し、且つ2003年において既に特許表示義務を果たしたことを証するに足る証拠があり、従って特許法(2003年2月6日改正前の特許法)第105条において準用する第88条の規定に基づき、特許権侵害行為人、乙に対し損害賠償を請求することができると主張した。

本件は裁判所の審理で、乙が製造し販売する製品は、係争特許の訂正後のクレーム範囲内にあり、甲の特許権を侵害していると認定された。しかし、甲が提出した証拠は、甲が2003年3月から2004年3月までの間、既に特許表示義務を果たし、その特許製品及びその包装上に特許証書番号を表示したと認定するには足りず、従って乙に対して当該期間の権利侵害の損害賠償を請求することはできないとした。裁判所の説明の概略は以下の通り:

  1. 特許法第79条では「特許権者は特許に係る物品又はその包装に特許証書番号を表示しなければならない、また、これをその実施権者又は強制実施権者に要求することができる。」としている。これは、第三者に当該特許権の存在を知らしめ、当該特許権の存在を知らなかったために特許権侵害行為の情況が発生することを避け、並びに侵害者の故意の行為を認定し易くするためのものである。その立法趣旨は、事情を知らなかったために特許権を侵害してしまった者を保護するためのものであり、明らかに他人の特許権があると知りながら侵害行為を行った場合は故意の行為に属し、当然、保護の必要はない。
  2. 審理の過程において甲は、表示義務を果たした証拠として、例えば商品カタログ等を提出した。しかし、当該カタログには特許証書番号が表示されておらず、カタログの余白の図面に、「特許所有・模倣は必ず追求」の文字が印刷されているだけである。これは、特許法第108条において準用する第79条の規定、実用新案特許権者は特許に係る物品又はその包装に特許証書番号を表示しなければならないとする要件に合致しない。甲はその他の証拠として、例えば、出荷の写真、出荷リスト1枚、録音された他者との会話の訳文コピー1通、ウェブサイト上の商品情報等を提出したが、写真には日付が表示されておらず、その出荷日を立証するのは難しい。また、その上に貼られた、係争特許の証書番号のシールがいつ貼られたかも立証できない。提出された出荷リスト、受領印等もまた2003年10月7日当時の出荷リストであることを立証するのは難しく、2003年10月7日の出荷者と同一であるかも立証し難い。更に、特許証書番号の表示がある甲の当時の製品、当該録音の光ディスク及びその訳文は甲の制作に係るものであるが日付が明記されておらず、その内容もまた甲の係争特許製品に関するものであると立証できないので、特許証書番号を表示した係争特許製品を有利な証拠とすることはできない。当該ウェブサイトの資料には係争特許の証書番号が明示されているが、係争特許製品の写真には単に商標が表示されているのみで、目視で係争特許の証書番号の表示があると認識できない。当該ウェブページに記載された日付も、特許証書番号が表示された係争特許製品が2003年3月から2004年3月の期間のものであることを立証する有利な証拠とすることはできない。甲が提出したその他の証拠もまた、既に特許表示義務を果たしていることを立証できない。以上の説明に基づき、乙は係争特許を侵害しているが、甲は2003年3月から2004年3月の間、その特許に係る物品及びその包装に特許証書番号を表示しておらず、従って乙に当該期間の侵害に対する損害賠償を請求することはできない。

上述の判決に関し、現行特許法第79条の規定は以下の通り:「特許権者は、特許に係る物品又はその包装に特許証書番号を表示しなければならず、また、これをその実施権者または強制実施権者に要求することができ、表示をしなかったときは、侵害者に対し損害賠償を請求することができない。但し、侵害者が特許に係る物品であることを明らかに知る又は知り得たことを証明するに足る事実があるときは、この限りでない。」

この規定の目的は、事情を知らない者による権利侵害を避けることであり、製品が特許権で保護されていることを特許権者が一般大衆に知らせることを奨励し、一般大衆が特許に係る物品か否かを識別できるようにすることにある。しかしながら、我が国の司法判決実務では、特許権者が特許法上の表示義務に違反した場合の法律上の効果について異なる見解がある。即ち、特許権者が特許証書番号を表示することを一種の義務と認定し、且つ特許権侵害の損害賠償提起のために特に重要な要件としている裁判所がある(知的財産裁判所98民専上57)一方で、例え上訴人が提出した証拠がその表示義務の立証に不足があるとしても、権利侵害行為の法律関係に基づき損害賠償を請求することができるとした裁判所もある。損害賠償請求理由の有無については、特許権の被侵害有無により判断を進める必要がある(知的財産裁判所97民専上易3)。現行法の文言上、特許表示が特許権侵害の損害賠償を提起するための前提条件又は特に重要な要件であると誤認され易いため、実務上の見解が分かれている。法律適用において疑義が生じることを防ぐため、現在手続が進められている特許法改正草案第100条では、前述の特許法第79条の『損害賠償を請求することができない』の規定を削除し、文言を「特許に係る物品には特許証書番号を表示しなければならない。特許に係る物品に表示できないときは、ラベル、包装、或いは他人の認識を引くに足るその他の顕著な方法でこれを表示することができる。表示をしなかったときは、損害賠償請求時に、侵害者が特許に係る物品であることを明らかに知る又は知り得たことを証拠により立証しなければならない。」と修正し、今後は法律適用上の疑義に明確に対応できるようにする。