特許明細書訂正事件行政訴訟判決要旨(台湾)

特許明細書訂正事件行政訴訟判決要旨(台湾) 1

【訴訟番号】2003年訴字第1773号
【判  決】2004年06月16日
【裁判事由】発明特許の訂正

判決書摘録

主文

原告の訴えを棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実概要・

原告は1997年6月26日、「プラズマエッチング電極及びその製造方法」について、被告(原経済部中央標準局、1999年1月26日経済部知的財産局と改称)に発明特許の出願をした。被告は出願第86108983号としてこれを審査し、特許を付与すべきものと認め、公告期間の満了後、発明第097740号として特許証を交付した。特許の付与後、原告は2002年6月4日、本件の特許請求の範囲及び特許明細書に特許法第67条第1項第2号に規定される誤記の事項があるとして、被告に訂正の申請をした。被告は申請を審査し、2002年11月15日付け(91)智専2(1)04075字第09199001329号書簡をもって訂正不許可の処分をした。原告は不服のため、訴願を提起したが、棄却されたので、行政訴訟を提起した。

理由

  1. 「発明特許権者は、特許を付与された発明の明細書又は図面に下記事由の一つがあると認める場合、特許主務官庁に対し訂正を申請することができる。ただし、発明の実質を変更することができない:…2、誤記の事項…」というのは、行為時特許法第67条第1項第2号に明らかに規定されていることである。「誤記の事項」とは、文字に書写上の錯誤、科学用語の翻訳上の錯誤、又は明細書の中に同一内容であるべき事項について前後の記載に不一致があること等、明らかに錯誤と認められる事項をいう。これは一般的には、当該分野の技術に習熟した者が、普遍・共通の知識に基づいて、客観的に特許明細書の総体的内容及び前後の記載から、直ちに明らかに錯誤による不明確な内容を識別することができ、かつ同時に深く考えることを要しないでいかにその錯誤を訂正して原意を回復するかを理解することができ、したがって、解読のときに当該特許の実質的内容の理解に影響を及ぼすことがない事項をいう。
  2. 本件原告は、第86108983号発明特許「プラズマエッチング電極及びその製造方法」の特許請求の範囲及び特許明細書に前掲条文に規定される誤記の事項があるとして、2002年6月4日、被告に訂正の申請をした。被告は申請を審査し、原告が提出した特許請求の範囲及び特許明細書の訂正案と特許付与時に公告された特許請求の範囲及び特許明細書を対比した結果、原特許明細書及び特許請求範囲の各箇所では、電気抵抗値の範囲がすべて0.001オームから0.4オームまでと一致して記載されており、これに対して前記の訂正案では、電気抵抗値の範囲の上限が0.4オームから40オームに拡大されているので、0.4オームの記載は誤記の事項とはいえず、これを訂正するのは特許の実質的内容を変更するものであり、前掲条文の規定に適合しないとして、訂正不許可の処分をした。原告は不服のため訴願を提起したが、棄却されたので行政訴訟を提起した。両当事者の主張は本判決の事実欄に記載のとおりである。
  3. 原告訴えの趣意:本件の中国語明細書及び特許請求の範囲の各箇所では、電気抵抗値の範囲がすべて一致して0.001オームから0.4オームまでと記載されているものではなく、これは中国語明細書の実施例及び表1の記載により明らかなとおり、たとえば、本件の実施例1~22の電気抵抗値の範囲は0.003オームから35オームまでであって、原告が訂正しようとする原記載0.4オームよりもはるかに高い数値である。また、中国語明細書の実施例に基づき、本件の電気抵抗値の範囲は合理的に0.001オームから40オームまでとすることができる。更に本件の英語明細書第4ページ、第5ページ及び特許請求の範囲第1項、第4項では、電気抵抗値の範囲が0.001オームから40オームまでであることが記載されている。したがって、原告が中国語明細書第2ページ、第5ページ及び特許請求の範囲第1項、第4項の電気抵抗値の原記載が0.4オームであるのを40オームに訂正するのは、純然たる誤記の訂正であって、実質を変更するものではなく、訂正を認めるべきである。
  4. わが国の特許出願に用いる言語は中国語を主としなければならず、外国語(英語)は参考に用いるものに過ぎず、また、中国語の文書と外国語の文書に不一致があるときは、中国語の文書を基準にしなければならず(前行政法院1987年判字第629号判決趣旨参照)、したがって外国語の文書を根拠として中国語の文書に誤記があることを証明することはできない。本件原告が2002年6月4日に提出した特許明細書及び特許請求の範囲の訂正案を原公告と比較すると、原告は特許請求範囲第1項及び第4項の電気抵抗値0.001オームから0.4オームまでを0.001オームから40オームまでに、また、明細書第2ページ及び第5ページの0.4オームを「40オーム」に訂正することを求めているのである。しかし、原特許請求範囲第1項、第4項及び明細書第2ページ、第5ページの記載内容によると、特許明細書の総体的内容及び前後の記載から直ちに明らかに錯誤による不明確な内容があることを識別できるような事情がないので、本件は誤記の事項に該当するとはいえず、したがって、原告が申請した本件の電気抵抗値の範囲の上限を0.4オームから40オームに訂正することは、実質的内容を変更するものであるので、訂正を許可することはできない。また、本件実施例1~22及び表1の電気抵抗値の範囲は0.003オームから35オームまでであって、訂正を求めている0.4オームよりもはるかに高い数値であると原告は主張しているが、前記の実施例及び表1には、1群の大小の数値が記載されているのみであって、これらの数値を帰納・整理しておらず、また、前記の数値の範囲には、原公告の電気抵抗値の上限0.4オームが入っているが、原告訂正案の40オームの数値はその範囲に入っていない。したがって、本件訂正申請は、誤記の事項の定義にある「直ちに識別することができる」、「深く考えることを要しないでいかに訂正して原意を回復するかを理解できる」という事情に該当しないので、許可をすることができないものである。前掲条文の規定及び上述の理由により、本件訂正を拒絶した被告の処分に誤りはなく、これを維持した訴願決定も不当ではない。原告がこれまでの主張をくり返し、原処分の取り消し及び原告に訂正の許可を命じることを求めたのは、理由がないので、その訴えを棄却する。