特許権侵害者に和解契約締結前の権利侵害商品を回収する義務はない (台湾)

特許権侵害者に和解契約締結前の権利侵害商品を回収する義務はない (台湾) 1

台湾知的財産局ウェブサイトに掲載されている電子報の法律に関する頁に、実用新案権侵害訴訟の和解後も侵害商品が流通しているとして、当該実用新案権利者が損害賠償を求めた裁判で、権利の行使は和解の範囲に拘束されるとして、知的財産裁判所が訴えを棄却した判例の要約とその説明が掲載された。
以下はその訳文である。

電子報掲載日:2011年10月5日

本件原告の主張は以下の通り。特許期間2001年6月23日から2012年6月4日までの実用新案特許「確実に漏れを防ぐ茶器の構造改良」の訴外人甲は、係争特許の特許権を原告に譲渡した。係争特許の製品は、原告の関連企業が製造し、販売している。甲は以前、被告が製造し販売した「易-PC600快速サーバーポット」(以下、係争製品)について、裁判所に民事訴訟を提起した。当該訴訟において、第三者が作成した鑑定報告で、係争製品は係争特許のクレームの範囲内にあると認定された。被告と訴外人甲は当該訴訟において和解に達したが、係争製品は依然として市場で流通しており、被告は継続して会社のウェブサイト上でも販売している。被告は当該和解後、かつて権利を侵害した製品と同じ形状の係争商品を市場で継続して販売し、係争商品の包装箱に使用されている写真もまた、原告の係争特許製品の写真と同一である。そのため原告は、特許法第108条において準用する第84条第1項、特許法第85条及び民法第28条及び会社法第23条の規定に基づき、被告はその侵害行為について、原告に対して賠償責任を負うべきであると主張した。

裁判所は本件の審理後、以下の通り認定した。和解とは当事者の約束を指し、互いに譲歩して論争を終結する或いは論争の発生を防ぐ契約である。従って、和解には、当事者に放棄させることによる権利消滅と、当事者に和解契約で明確に定められた権利を取得させる効力がある。民法第736条と第737条とにそれぞれ明文の規定がある。そのため、和解成立後に発生する法律上の効力の消極的な面は、当事者に放棄させることによる権利消滅であり、積極的な面は当事者に和解契約で明確に定められた権利を取得させることである(最高法院1998年度臺上字第321号判決参照)。原告は、甲が2000年6月5日に係争特許を取得した後、係争特許の権利を原告に譲渡したと主張した。甲は以前、被告が製造し販売した係争商品について、本院に2009年度民専訴字第55号特許権侵害に関する財産権争議等の事項の民事訴訟を提起した。甲と被告は2009年12月2日、本院において和解が成立した。被告が同意した和解内容は、侵害係争特許の製品を二度と販売しない、且つ2009年12月5日以前にNT$100,000を甲に支払う等の事項であり、既に原告は特許証書、特許公報及び本院の和解記録等の文書を証拠として提出した。これについて、被告は意見の相違はないことを認めた。前案件の記録内容から、被告には甲にNT$100,000を支払うこと、及び係争特許を侵害する製品を二度と販売しないこと等の義務があるのみで、被告に前案件の和解以前に製造又は販売した係争商品を回収する義務はないことが分かる。前掲の諸説明から判断すると、和解には既に消滅した法律関係と、新たに創設された法律関係があり、もし被告が前案件の和解後、係争特許を侵害していないのであれば、甲は和解内容の制約を受け入れなければならず、当然、前案件和解以前に被告が製造又は販売した係争商品が今もなお市場に流通している場合、被告に対して係争特許を侵害していると主張することはできない。

和解が成立した場合、それは確定判決と同一の効力を有する。別段の規定がある場合を除き、確定した終局判決は裁判を経た訴訟目的に対して既判力を有する。確定判決は、当事者の他、訴訟係属後に当事者の承継人となった者、及び当事者又はその承継人が請求を保持する目的物についても効力があり、民事訴訟法第379条第1項、第400条第1項及び第401条第1項にそれぞれ明文の規定がある。甲は前案件和解後、係争特許権を原告に譲渡し、原告は甲から係争特許を譲り受けて前案件和解の承継人となったため、既判力の客観及び主観の範囲に基づき、原告は被告の係争特許権行使について、前案件の和解内容の拘束を受けなければならない。