台湾における中国語商標の登録 繁体字、簡体字の選択

台湾における中国語商標の登録 繁体字、簡体字の選択 3

漢字は台湾、中国、香港、シンガポール、マレーシアを含む中華圏、そして日本で広く使われている。中国語の漢字は時代の変遷等に伴い、中国、シンガポール、マレーシア(マレーシアにおいて中国語は正式な公用語ではない)では簡体字で、台湾、香港では繁体字で表記される。日本語の漢字は和製漢字以外に、基本的には繁体字、又は繁体字に近いものとなっている。

中国語商標を繁体字又は簡体字の何れで出願すべきかは、日本、欧米又はその他の海外企業が商標出願の際に度々悩まされる問題である。

基本的に、簡体字は繁体字を簡略化したものであるが、全ての漢字が繁体字又は簡体字に分けられている訳ではなく、例えば山、水、谷など、多くの中国語漢字は繁体字と簡体字が同じである。一般的に、繁体字教育を受けた人は、簡略化された簡体字を識別し易い。一方、中国で簡体字教育しか受けてない人にとって、繁体字や正体字の識別は難しく、繁体字や正体字で書かれた古代中国の詩詞や伝統文化の文書を読むのは困難である。

例えば、APPLEの繁体字は「蘋果」だが、簡体字は「苹果」である。最初の文字の「蘋」と「苹」は、繁体字と簡体字で異なっているが、二番目の文字「果」は繁体字、簡体字ともに同じである。また、登録が認められた商標は台湾では「註冊商標」、中国では「注册商标」と表記し、何れも登録商標の意味であるが、「註」と「注」の文字に限ってみると、台湾においては発音こそ同じだが、同義ではない。一様には判断できないため、中国語商標を登録する場合には、将来不使用(又は不正使用)と認定されて取消(台湾では「廢止」、中国では「撤销」という)されないよう、当該商標の販売地区の言語、習慣及び商標登録後の商標の正確な使用の仕方を考慮する必要がある。

海外企業が台湾で簡体字中国語の商標を登録、使用することは可能である。しかし前述のように、台湾で使用される中国語漢字は繁体字である。また台湾の消費者が商品上の簡体字商標を目にしたとき、一般的には受け入れられるものの、簡体字商標は台湾消費者に当該商品は中国製であるとの印象を与え、中国製商品の品質の不均一、模倣品の多さから、台湾の消費者が抵抗感や違和感をもつ可能性がある。

この他、台湾において商標を簡体字で登録し、商品には繁体字の商標を使用した場合、逆に台湾において商標を繁体字で登録し、商品には簡体字の商標を使用した場合、台湾知的財産局が、実際使用の商標を登録商標の使用と見なすかも考慮すべき問題である。

商標は国ごとに付与されるため、台湾で登録した商標は台湾でしか保護されず、また、商標法の規定により、登録商標は中断せずに三年連続して使用しなければ取り消される可能性がある。取消の基準は、当該商標が台湾において合法で正しく使用されているか否かである。台湾商標実務では、使用とは登録商標全体の使用でなければならず、部分的な使用は認められない。例えば、登録商標が英語、日本語、中国語で構成されている場合、使用の際は必ず英語、日本語、中国語を併せて使用しなければならず、英語又は日本語だけの部分的使用は登録商標の使用と認められない。

しかし、商標権者が実際使用している商標と登録商標が異なる場合でも、台湾商標法及び実務(「商標使用の注意事項」)では商標の使用認定において、社会の一般的な知識においてその「同一性」が失われないのであれば、登録商標の使用と認められる。「同一性」とは、実際使用の商標と登録商標が、形式上やや異なっていても、登録商標の主な識別特徴が実質上変更されておらず、社会の一般的な知識及び消費者の認知を基に、実際使用の商標は原登録商標と同じであるとの印象を与える場合で、両者は同一商標で同一性を有すると認められる。例えば、登録商標が横書きで実際使用の商標が縦書き、或いは字体の相違、外国語の大文字、小文字の変更等は何れも同一性を有すると見なされる。

登録商標が繁体字で実際使用の商標が簡体字の場合、逆に登録商標が簡体字で実際使用の商標が繁体字の場合、今のところ台湾では参照できる明確な解釈や裁判所判決の前例はないが、台湾知的財産局の多くの審査官は、繁体字及び簡体字の違いは、一般的な社会知識及び消費者の認知を基に判断するべきと考えている。つまり、違いが小さいものは同一性を有する可能性があり、違いが大きいものは同一性を有さない可能性がある。

例えばフランスの化粧品メーカー、ロクシタン(L’OCCITANE)の中国語商標「歐舒丹」(繁体字)と「欧舒丹」(簡体字)は同一性を有すると認められる可能性がある。しかし、例えば「註冊商標」(これが商標であると仮定する)を登録し、実際使用では「注冊商標」を使用した場合、前述の通り台湾において「註」と「注」の語は意味が異なるため、同一性を有さないと認定される可能性が大きい。

このため、知的財産局では、商標権者が繁体字商標、簡体字商標の何れも使用する場合は、より広い範囲で保護でき、また第三者の冒認又は模倣を防止するため、繁体字と簡体字の商標をそれぞれ登録出願することが望ましいと考えている。

なお、台湾では香港で採用されているシリーズマーク(Series mark)の制度はない。香港では繁体字、簡体字商標をシリーズマークとして一つの出願に含めることができるが台湾ではできない。そのため、もし繁体字、簡体字を一つの出願として申請し、登録された場合、使用する際は必ず両者同時に使用しなければならず、消費者に唐突な印象、抵抗感や違和感を与える。

以上を踏まえ、台湾では繁体字が使用されているため、商標は繁体字(正体字)で出願、登録して使用すべきである。出願人が中国において同一商標を簡体字で登録して使用している場合、より広い範囲で保護し、また第三者の冒認又は模倣を防止するため、台湾において繁体字商標だけでなく簡体字商標も出願、登録するのが望ましい。

台湾における中国語商標の登録 繁体字、簡体字の選択 4
台湾における中国語商標の登録 繁体字、簡体字の選択