以下に掲載するのは、台湾の著名農産品の産地名称が大陸地区おいて商標として登録されている問題に関する経済部知的財産局のプレスリリースの全文である。地理的表示の保護ついては、台湾では「証明標章」として、また、中国大陸では「証明商標」又は「団体商標」として、登録をすることにより保護を受けることができる。このプレスリリースでは、両地区における地理的表示の保護制度及び登録出願手続についての説明のほか、大陸地区において台湾の地理的名称が通常の商標として登録されている場合の対応措置について、特に、当該商標登録の取消前に、当該商標登録をした者が同一又は類似の商標を使用した者に対し、商標権侵害の民事訴訟を提起し又は商工行政管理部門に行政処分を申請した場合、又は犯罪の疑いがあるとして刑事訴追のために事件が司法機関に移送された場合の対応措置について、知的財産局の見解が述べられている。
(経済部知的財産局プレスリリース)
主題内容:
- 地理的表示の保護問題について
- (1) わが国はWTO加盟国であるので、地理的表示(Geographical Indication;GI)の保護に関するTRIPsの規定を履行する必要がある。TRIPs第22条1の規定により、地理的表示とは、当該産品がある会員国の領域又はその領域の一地区又は一地点を原産地とするものであり、かつ当該産品の品質、名声又はその他の特性が主として当該地理的原産地に由来するものであることを特定する表示をいう。わが国の現行の制度では、上記の要件を満たす地理的表示については、「地理的表示の証明標章登録出願作業要点」に基づいて、証明標章として登録することにより保護を与えている。現在のところ、地理的表示の証明標章としての登録には、登録第84号及び第85号の「池上米」がある。
- (2) 次に、地理的表示の基準に達していない「産地」の名称についても、証明標章の登録を出願することは可能である。商標法第80条の規定により、証明標章については、商標法第8章〔証明標章、団体商標及び団体商標〕の規定が適用されるほか、その性質に対応して商標法の商標に関する規定が準用される。したがって、原則として、商標の識別性の要求(商標法第5条)及び実体上の登録禁止(第23条)に関する規定はすべて、証明標章の登録出願にも適用される。このため、証明標章を出願するときは、「商標識別性審査要点」の要求を満たすため、また、後日の権利主張又は侵害認定に困難が生じるのをさけるため、地名の単純な表記のみからなるものではなく、総体的に文字をデザイン化しかつ図形的要素を加えたものを採択するのが最も好ましい。
- 台湾企業の大陸地区における登録の可能性
- (1) 大陸もWTOの加盟国であるので、地理的表示(Geographical Indication;GI)の保護に関するTRIPsの規定を履行するため、大陸地区商標法第16条及び商標法実施条例第6条に地理的表示の証明商標又は団体商標としての登録に関する具体的規定を定め、保護を与えている。
- (2)大陸地区において地理的表示の証明商標又は団体商標の登録を出願するときは、登録願書を提出するほか、1.当該地理的表示の表す商品の特定の品質、名声又はその他の特徴、2.当該商品の特定の品質、名声又はその他の特徴と当該地理的表示の表す地区の自然又は人文的要因との関係、3.当該地理的表示の表す地区の範囲、4.証明商標の出願の場合は、当該証明商標を使用する特定商品の品質を認定する能力を有することを証明するため、出願人又はその委託する機構の専門技術者、専門検査・測定設備等の状況を説明しなければならない。前記のほか、大陸地区の出願人であるときは、当該地理的表示の表す地区を管轄する人民政府又はその事業の主管部門の許可書類を提出しなければならず、出願人が外国人又は外国企業であるときは、当該地理的表示が出願人の名義でその属する国で法律上の保護を受けるものであることを証明する書類を提出しなければならない。
- (3)台湾地区の企業が大陸地区において農産品の産地名称の登録を出願するときは、まず、商標として出願するか、又は証明商標若しくは団体商標として出願するか、検討をしなければならない。商標として出願する場合において、先に違法に登録された他人の商標があるときは、その登録の取消請求をしなければならず、また、商標の識別性の要求を満たすものであることを要するので、登録出願の過程又は後日の権利主張又は侵害認定において困難が生じるのをさけるため、地名の単純な表記のみからなるものではなく、総体的に文字をデザイン化し、かつ図形的要素を加えたものを採択するのが好ましいことをここに改めて述べておく。これに反して、台湾の企業は、証明商標又は団体商標として出願する場合、前述の証明書類を提出する必要があるので、整合性(地理的範囲の画定)に対する配慮のほか、農産品と自然又は人文的要因との関係の調査・研究資料等を提出しなければならないので、難度がかなり高いことになる。前記のほか、大陸地区の証明商標又は団体商標の出願に提出すべき書類は、わが国での証明標章の出願に必要な書類とおおよそ同じであるので、国内で審査を経て証明標章としての登録が認められている場合は、当該標章の公信力を強化し、対岸における出願の成功率を高めることができる。したがって、企業が大陸地区に証明商標又は団体商標を出願しようとするときは、まず、国内で証明標章の登録を取得してから大陸地区に出願をするのが望ましいことを重ねてここに述べておく。
- 大陸おいて商標として登録されている場合の取消請求の可能性
- (1)台湾の地理的原産地表示が大陸において商標として登録されているのに対し、台湾の企業は、その登録が大陸地区商標法第11条第1項第3号(顕著性の欠如)、第10条第2項(県以上の行政区画の地名又は公衆に知られている外国の地名)、第10条第1項第8号(悪影響を及ぼす商標)の規定に違反し、又は欺瞞若しくは不正手段により取得したものであるときは、同法第41条第1項後段の規定により、大陸地区の商標評審委員会にその登録の取消を請求することができる。なお、当該商標の登録が同法第16条第1項(商標見本に地理的表示が含まれているが、その指定商品が当該地理的表示を原産地とするものではなく、公衆に誤認を生じさせるもの)、又は第31条(他人の先に取得した権利に損害を与える商標、又は不正手段により先取りして登録した商標)の規定に違反する場合は、同法第41条第2項の規定により、同委員会にその登録の取消を請求することができる。ただし、取消請求は当該商標の登録後5年以内にしなければならない。また、取消請求・訴訟の勝算の見込みについては、台湾の請求人が当該取消請求・訴訟において主張する条文、請求の時期、証拠資料が充分であるか否かということ、大陸地区の法律運用基準等が重要な要因となるので、予測することは困難である。
- (2)前記大陸地区における違法登録商標の取消前にその登録を取得した者が台湾地区の企業に対し商標権を侵害したとして所管の地方裁判所に(民事)訴訟を提起し又は工商行政管理部門に(行政)処分を申請した場合、また、甚だしきに至っては犯罪の疑いがあるとして司法機関に(刑事)訴追のため事件が移送された場合には、たとえば、当該商標に茶葉の産地の「地名」が含まれるときは、大陸地区商標法実施条例第49条の「登録商標権者は他人の正当な使用を禁止する権利を有しない」旨の規定を合理的な抗弁理由として引用し、商標権侵害の責任を免除されるものであることを主張することができる。
- 地名の商標としての登録の可否
地名は全く商標として登録できないものであるかという問題については、登録を出願した商標の全体的構成及び他の文字との結合であるか否かを考慮に入れて認定する。また、地名と指定商品又はサービスとの関連の程度も判断の要因である。出願商標が地名とその他の図形又は文字のデザインとの結合であり、その構成の総体が消費者に単に地名としての印象を与えるものでないときは、その構成の総体を商標として登録を認めることができる。これに反して、単に地名を表す文字のみからなるものであるときは、当該地名と指定商品又はサービスとの関連の程度を考慮に入れ、指定商品又はサービスがその地域を出所とするものであるときは、商品の説明文字に該当するため、また、指定商品又はサービスがその地域を出所とするものでなく、かつ、当該地名と指定商品又はサービスとの間に密接な関係があるときは、公衆に出所について誤信、誤認を生じさせるおそれがあるので、商標法第23条第1項第11号の規定により登録を認めることができない。指定商品又はサービスが当該地域を出所とするものではなく、かつ、当該地名と指定商品又はサービスとの関係の程度が高くないときは、消費者に誤信、誤認を生じさせるおそれがないので、現在の語彙集に収録されている単語又は普通の名詞からなる恣意的商標として登録を認めることができる。例:フィルムを指定した「富士」の登録;酒類を指定した「玉山」の登録。 - なぜ主動的に台湾の地名の先取り登録を調査しないか
商標権の取得と制度の管理は、もとより市場における公正な競争及び消費者の権益の保護と密接な関係を有するものであるが、商標権は本質的には一種の私権であるので、登録を取得した商標については、確かに他人の先に取得した権利を侵害し、又は公衆に誤信、誤認を生じさせるおそれがある場合、現在のところわが国又は外国の法律の規定を問わずすべて、利害関係人又は一般人の異議申立、審判請求等公衆審査により違法の登録を取り消す制度を採用しており、特定の国の商標登録状況を全面的に監視する制度を実施している国はない。このような状況であるので、政府としては台湾の地名の商標としての先取り登録を主動的に調査することはできない。 - 両岸の商標登録の現状
- (1)両岸の商標保護制度は均しく属地主義を採っており、商標権の効力は他方の地区に及ぶものではないので、いずれか一方の企業が他方の地区において商標権を取得しようとするときは、その地区の商標主務官庁に登録出願をしなければならない。
- (2)わが方の企業の大陸地区に対する商標登録出願は、1989年から2004年末までの合計件数が9万114件であって、年々増加しており、1989年以降の各年の出願件数は付表(2)のとおりである。
- (3)大陸地区の人民のわが方に対する登録出願は、1989年から2004年末までの合計件数が2591件であり、1993年以降の各年の出願件数は付表(3)のとおりである。
- (4)上記の統計数字に示されるとおり、同一期間(1993年から2004年まで)におけるわが方の大陸地区に対する登録出願の件数は、大陸地区から台湾への登録出願件数のほぼ40倍である。このため、商標の模倣、先取り登録に関する紛争が増加しているが、わが方の企業の大陸地区への登録出願が大陸地区からわが方への登録出願よりもはるかに多いので、この問題については主動的に対応措置をとるのではなく、知的財産権の保護について双方で協議を行い、共同で模倣、先取り登録の行為を制止することについて共通の認識を達成し、又は双方の学術及び実務上の交流を積極的に推進し、民間の方式で知的財産権の相互保護の体制等を整えて、関係産業及び知的財産権の保護にあたるのが望ましいと考えられる。
- 商標先取り登録はWTOの機構を通じて解決すべき問題であるか
WTOの紛争解決機構は、加盟国間の紛争の解決を図る機構である。これは、加盟国間で、すなわち、両国の「政府」の間に知的財産権の保護について紛争が生じた場合に解決を図るための機構であり、先取り登録の問題は、権利者間又は権利者と非権利者との間の争いであり、かつ、手続きの面では「個人対個人」又は「個人対政府」の争いでもあるので、WTOの機構に図ることができる問題ではない。
前記の紛争の解決方法及び組織としては、相談・協議、調停、斡旋、専門家の審査及び上訴機構等が考えられるが、相談・協議によって解決できない場合にのみ、司法的性質の専門家審査を行う方式をとるべきである。このほか、紛争の原因については必ず法律の規定及び相手方の措置がWTOの規定に違反する事実を挙げなければならず、たとえば、商標の先取り登録については、中国大陸の法律の規定により、当該登録が不当であることを主張しその取消を求めることができるものであるので、現状においては、法律の規定又は措置がWTOの規定に違反する程度に達していないので、まだWTOに提訴して紛争の解決を求める時期ではない。

