台湾・中国 知的財産権保護協力協定の調印/第5回江陳会談

台湾・中国 知的財産権保護協力協定の調印/第5回江陳会談 1

台湾と中国間においては、経済の実務協議を目的とする江陳会談(台湾の海峡交流基金会理事長、江丙坤氏と中国の海峡両岸関係協会会長、陳雲林氏との会談)が開催されており、2010年6月29日の第5回江陳会談では知的財産保護協力協定と経済協力枠組み協定(ECFA)が調印された。

今回の知的財産保護協力協定では、台湾、中国間の優先権主張が可能になる。台湾と中国は何れも既にWTOに加盟している。WTOの加盟国間では優先権を主張することができるが、中国は台湾に対する政治的立場から、台湾出願に基づく優先権の主張を認めなかった。そのため、台湾側も中国出願に基づく優先権の主張を認めていなかった。今回の協定調印で両者間の優先権主張が可能になることは特筆すべき点である。

但し、本協定の署名発効について協定の第17項で「本協定署名後、双方は関係手続きの完了を書面で相手側に通知する。双方が相手側からの通知を受領した翌日から、本協定は発効する。」と規定されている。本協定について台湾側では今後、立法院の審議を経る必要があり、中国側も何らかの手続きを経る必要があると思われる。従って、2010年7月の段階で本協定は未だ発効していない。

台湾の知的財産局は、知的財産権保護協力協定が必要とされる背景を説明しているが、主な内容は以下の通りである。なお、以下で「特許」とある場合は発明特許、実用新案特許、意匠特許を指す。

  1. 台湾から中国への特許、商標の出願件数が中国から台湾への出願件数を大きく上回っている。

過去5年間の状況を表に示すと以下の通りであるが、2009年度を見ると台湾から中国への出願件数は中国から台湾への出願件数に比べ、特許で約30倍、商標で約9倍になっている。そのため、両国の知的財産権保護の環境を向上させることは、中国側業者に比べ、台湾の業者により利するものであり、積極的に進めるべきである。

特許出願件数
年度台湾から中国中国から台湾
200520,599195
200622,496292
200722,833358
200822,469566
200921,113694
合計109,5102,105
(単位:件)
商標出願件数
年度台湾から中国中国から台湾
20059,406561
20065,773595
20079,914957
20089,020957
200910,6761,186
合計44,7984,256
(単位:件)
  1. 優先権の主張が認められていないため、研究開発の成果の保護が不十分である。
    台湾から中国への特許出願は毎年2万件を超えているが、台湾と中国間では相互に優先権の主張を認めていなかった。そのため、権利者の両国における出願日が異なる場合、容易に第三者に冒認出願され、研究開発の成果の保護が不十分であった。
    例えば、2010年1月1日に台湾で出願した発明特許と同一の発明を、中国に2010年12月31日に出願する場合、その間の優先権が認められないため、容易に第三者にその発明を中国で冒認出願されてしまう。相互間の優先権が承認された場合は、中国において先行技術の存在有無の判断時、2010年1月1日が認められるので、同年12月31日に出願しても第三者に不法に冒認出願されることはなく、確実に研究成果が保障される。
  2. 模倣、違法コピー及び冒認登録の状況が散見される。
    台湾・中国間の商取引は頻繁であり、加えて言葉が通じるため、他の国に比べて台湾の著名商標または著名産地名が模倣、冒認登録される、著作物が違法コピーされる率が高い。台湾の知的財産権が中国で模倣、違法コピー及び冒認出願・登録の被害にあった例としては、「永和豆漿」、「真鍋珈琲」、「捷安特」、「誠品」、「錢櫃」、「慈濟(醫院)」等の著名商標の模倣被害、「慈濟」、「阿里山茶」、「池上米」等の冒認出願登録の被害があり、また周杰倫、蔡依林、楊丞琳、S.H.E、五月天等の有名な歌手の曲、「康熙來了」、「就想賴著你」等のテレビ番組、及び映画「艋舺」は、しばしば違法にコピーされるほか、度々インターネットで違法にダウンロードされている。「艋舺」を例にとると、フィルムディーラーの評価では、中国における違法コピーの影響は、映画の興行収入等の売り上げ総額の2割に達し、損失は約1億元にのぼる。
  3. 民間団体を通して個別に協力処理する方式では、直接性、迅速性、有効性が不十分である。
    2008年から台湾政府は民間の組織を通して中国の主管官庁と毎年交互に特許、商標及び著作権に関するフォーラムを開催し、終了後には双方の知的財産権保護の問題について話し合い、意見を交換している。この様な交流を通して、双方の一部の議題及び相互の信頼面については徐々に基礎が築かれている。例えば、冒認登録された「阿里山」等の著名産地名称は、この様なパイプを通じて中国側と協調して取り消し、取り戻した。この他、「台灣啤酒」、「中華電信股份有限公司」及び「池上米」は2009年に登録された。また「金門高梁」及び「慈濟」は、2010年1月に中国から著名商標と認定された。
    しかし民間の組織を通しての処理は間接的であり、煩雑で時間がかかる。例えば「台灣啤酒」は中国で商標登録を申請してから10年かかって登録を取得した。知的財産権案件の処理は公権力に及ぶため、アメリカ、ヨーロッパ連合等の主要国では、同国の企業及び同国民の知的財産権を保障するため、協議を通じて中国に保護の強化を要求している。台湾は中国の7番目の貿易相手国であり、5番目の投資国である。企業と国民の権益を保障するため、政府は協議を通じ、中国に主管部門のパイプや活動の場、及び協調して処理するシステムを築いて、台湾国民と企業が中国でより良い知的財産権の保護が得られるようにする必要がある。
  4. 台湾の映画・音楽産業が中国市場に進出するには、香港を通して著作権認証を行わなければならず、手続きに時間がかかり違法コピーの問題が発生する。
    台湾の映画・音楽・文化創造産業が中国に進出する場合、先ず香港を通して著作権の認証を行い、更に中国の関係機関に申請した審査の通過後、やっと認可される。この様な過程では、中国の認可に時間がかかる他、第三者に違法コピーされ易い。このため、台湾内で関係産業協会が直接著作権の認証手続きできるよう、協議を通して積極的に実現を目指す必要がある。これにより、台湾側の映画・音楽・文化創造産業が中国へ進出するために要する時間が短縮され、違法コピーの問題も低減する。
  5. 台湾産でない果物を台湾産と表示し、農家及び消費者の権益に影響を及ぼしている。
    台湾産果物の品質の高さは早くから評価を得ており、上海等の都会で広く受け入れられているが、市場には台湾産でない果物に台湾産と表示されていることがある。台湾産の果物に負の印象をもたらし、販路を断ち切ることにつながり、台湾の果物農家の権益と中国の消費者の権益を損なう影響がある。

2010年6月29日に調印された知的財産保護協力協定の合意内容は以下の通りである。

知的財産保護協力協定

  1. 協力の目的
    双方は平等互恵の原則に基づき、特許、商標、著作権及び植物新品種権(植物品種権)(以下、品種権と略称)等の台湾、中国の知的財産権の保護に関する交流と協力を強め、話し合いで問題を解決し、双方の知的財産権のイノベーション、応用、管理及び保護を向上させることに同意する。
  2. 優先権利
    双方は各々の規定により、相手側の特許、商標及び品種権の1番目の出願日の効力を確認し、双方の優先権の権益を保障することに同意する。
  3. 品種の保護
    双方は各々が公告した植物品種保護リスト(植物の種類)の範囲内で相手側の品種権の申請を受理し、並びに植物品種保護リスト(品種権を申請できる植物の種類)の拡大について協議することに同意する。
  4. 審査協力
    双方は特許検索及び審査結果、品種権審査及び試験等について協力し、協議することに同意する。
  5. 業界協力
    双方は台湾、中国の特許、商標等の業界の協力、有効な提供、迅速なサービスを促進することに同意する。
  6. 認証サービス
    双方は台湾、中国の著作権貿易を促進し、著作権認証の共同システムを設立し、一方のオーディオ・ビジュアル(映像と音楽)製品を他方で出版する場合は、一方が指定する関係協会又は団体が著作権認証業務を行い、また、書籍、ソフトウェア(コンピュータプログラム)等のその他の作品、製品の認証制度の設立について意見を交換することに同意する。
  7. 協力処理システム
    双方は法を執行し協力して処理するシステムを設立し、下記の知的財産権の保護事項について、各々の規定により適切な処理を行うことに同意する。
    • (1)違法コピー、模倣。特に書籍、オーディオ・ビジュアル(映像と音楽)及びソフトウェア(コンピュータプログラム)等の違法コピーをインターネットを通して提供又は提供を幇助している、権利を侵害するウェブサイト、及び市場に流通する違法コピー及び模倣品を調査する。
    • (2)著名商標、地理表示又は著名産地名称。悪意に基づく冒認登録行為を共同で防止し、権利者が冒認登録された著名商標、地理表示又は著名産地名称の取消を請求する権利の行使を保障する。
    • (3)果物及びその他農産物の虚偽の産地表示について市場の管理・監督及び調査を強化する。
    • (4)その他の知的財産権保護事項

      上述の権益保護事項の処理時、双方は相互に必要な情報を提供し、並びに処理結果を通知することができる。 
  8. 業務交流
    双方は以下の事項について、知的財産権業務の交流と協力を推し進めることに同意する。
    • (1)業務担当者の作業会合、視察訪問、経験及び技術の交流、研究討論会の開催等、関連業務の研修を推進する。
    • (2)制度・規範、データベース(データ、文献資料)、その他関連情報の交換
    • (3)関係文書の電子交換の協力推進
    • (4)著作権管理団体の交流と協力の促進
    • (5)関連企業、代理人及び公衆への広報、指導を強化する。
    • (6)双方が同意した、その他の協力事項
  9. 業務計画
    双方は別々に特許、商標、著作権及び品種等の業務部門を設置し、同意した具体的業務計画及び方案に責任を負うことに同意する。
  10. 機密保持義務
    双方は本協定の関連する活動において得た情報の機密保持に同意する。但し、請求目的に基づき使用する場合は、この限りではない。
  11. 用途の制限
    双方は、相手側が提供する資料を、請求目的に適う場合にのみ使用することに同意する。但し、双方に別に約定があるときは、この限りではない。
  12. 文書の様式
    双方は同意した様式を使用することに同意する。
  13. 連絡主体
    本協定の議定事項は、双方の業務担当部門が指定する連絡担当者を通して相互に連絡をとる。必要な場合には、双方が指定に同意したその他の組織と連絡することができる。
    本協定のその他の関連事項については、財団法人海峡交流基金会と海峡両岸関係協会が連絡をとる。
  14. 協定の履行及び変更
    本協定は遵守されなければならない。本協定を変更するときは、双方の協議、同意を経て書面で確認しなければならない。
  15. 争議の解決
    本協定の運用により発生した争議は、双方が協議を尽くして解決しなければならない。
  16. 未協議事項
    本協定に未協議事項がある場合は、双方が適切な方式で別に協議することができる。
  17. 署名の発効
    本協定署名後、双方は関係手続きの完了を書面で相手側に通知する。双方が相手側からの通知を受領した翌日から、本協定は発効する。

本協定は6月29日に署名。一式4部、双方が各2部づつ保持する。

財団法人海峡交流基金会 \ 海峡両岸関係協会
理事長 江丙坤 \ 会長 陳雲林