商標の合理的使用/善意の先使用の事例(台湾)

商標の合理的使用/善意の先使用の事例(台湾) 1

台湾の知的財産局のウェブサイトに商標の合理的使用/善意の先使用の事例として7件の判決要旨が掲載されている。先号では1件目から4件目までを紹介したが本号では5件目から7件目の和訳を掲載する。なお、判決要旨だけでは、事件の内容が分かりにくいため、訳者が判決全文から理解を助けると思われる部分を補足説明として入れた。また、文中に書類、表、図等の添付についての言及があるが、ウェブサイト上の本判例集、判決全文には添付されていないため、判決文中で言及された登録の商標態様を知的財産局のデータベースからコピーした。

合理的使用/善意の先使用の事例

商標権の取得により、商標権者には専用権及び他人の使用を排除する権利が付与されている。しかしながら、市場の自由競争及び商標の先登録主義と先使用主義の対立の調停の妨げとなることを避けるため、商標専用権の効力は一定の制限を受けるべきものである。商標法第30条で特に規定されている他人の登録商標の合理的使用の様態については、以下の判決を参考にされたい。

5.知的財産法院98年度刑智上易字第40号刑事判決
(善意の先使用には地域的制限がない)

商標法第30条第1項第3号の改正前の条文、行政院から立法院に送付された改正草案には、「原使用商品及び原生産・販売規模に限る」との但書があった。しかしながら、立法院の二読の際に「原生産・販売規模」の語が削除されて「原使用商品又は役務に限る」となり、原生産・販売規模の制限がなくなった。本法の条文改正の過程で「原生産・販売規模に限る」の語が削除されたことは、原生産・販売規模の制限を必要としないことを意図しており、従って改正後の「但し原使用商品又は役務に限る」の文言となった。即ち、地理的区域及び業務規模の制限は無いと理解すべきである。立法者は「原生産・販売規模に限る」制限を削除した際、生産・販売規模の状況が同一でない場合も当然想定していた筈で、原所在地における店の拡張に限る又は原地理区域内の支店の開設に限るのであれば、条文に明確に規定されていない制限を条文の意味に勝手に加えるものであり、明らかに法的根拠のない解釈に属する。本条文には、地理的区域及び営業規模の制限についての規定はないので、「罪刑法定」の原則に従い、拡張解釈によって善意の先使用者の権利を過度に制限して刑法の適用を拡大すべきではない。

[補足説明]
本件の告訴人は、1985年に登録された「老夫子及び図 LAOFUTZU」商標2件((1)指定役務:軽食レストラン、権利満了日:2015年8月31日、(2)指定商品:水餃子、牛肉麺、サンラータン麺、ジャージャー麺、権利満了日:2015年11月15日)の譲受人。
被告は1979年から「老夫子連鎖牛肉麺餐飲」の名称を使用していると主張し、証拠もあるため、告訴人もこの点は否定していない。以下の経緯は次の通り。2005年に被告が「老夫子連鎖牛肉麺餐飲」の名称で台南市に出店(安平店)→ 2007年5月30日に告訴人が被告に対して侵害行為の停止を要求する書簡を送付 → 2008年に被告が「老夫子牛肉麺」の名称で台南市に出店(府前店)。
告訴人は2008年7月14日に告訴状を提出した。
台湾台南地方法院は告訴人の商標が登録された1985年以降に被告が新たに2店出店したことを集合犯と認め、被告に4ヶ月の懲役刑若しくは罰金を科すと判決した。
この判決に対し、公訴人である台湾台南地方院検察署検察官は刑が軽すぎるとして、被告は刑が重すぎるとして、ともに知的財産法院に上訴した。
知的財産法院は本件の争点を、告訴人の商標登録時以前に被告が「老夫子」を含む商標を使用したことが善意の先使用に当たるか、告訴人が被告に侵害行為停止を要求した後も被告が係争商標を使用した行為は主観的に犯罪を意図したものであるか、及び被告が3年の間隔をおいて支店を出した行為に集合犯が適用できるかであるとした。
同法院は、被告の善意の先使用を認め、その使用に地理的区域、業務規模の制限はないとした。且つ被告の行為は告訴人の商標権の拘束を受けないと認定し、原判決を取り消して被告を無罪とした。

商標の合理的使用/善意の先使用の事例(台湾) 2

6.台湾高等法院高雄分院93年度易字第199号刑事判決(善意の先使用)

商標を善意で使用した場合、仮にその登録を怠っても、その商標の使用の事実をその後に登録を出願した者が抹殺し、遡って商標の善意の使用者の使用行為を制約することは認められない。但し、登録を怠った商標者は、他人が商標登録した後の使用については当然、適切な制限を受けなければならず、商標権者は、適切な区別の標示を付加することを要求して、当該使用権が拡張されて登録者の権利が棄損されることを避けることができる。
添付の表に示された商品上の商標態様は、既にボーイスカウト連盟が当該商品について、商標、団体標章の登録を取得していることは添付資料から分かる。被告が登録前(新法では商標登録出願日前)、善意で同一又は類似の商標を同一又は類似の商品に使用することは前述の後願登録商標権者の制約を受けない。公訴人は、被告が使用したこと並びに原商標又は原商品でないことを証明しておらず、且つ差し押さえ事件の物品が、告訴人の商標登録後に製造されたこと又は被告は善意の使用でないことを証明しておらず、また過去において商標権者は被告に適切な区別の標示を付加することを要求していない。従って、添付書類に記載された中国ボーイスカウト連盟の商標の出願前に、漢威企業社は既に当該商標を同一商品上に善意で使用しており、被告は漢威企業社の連永綏の指示を受けて商品を発送した。これは前述した善意の使用の範囲内であって、添付書類に記載された商標の専用権の制約を受けない。 

[補足説明]
本件の告訴人は中国童子軍總会(中国ボーイスカウト連盟)で、被告はスカウト用品及び材料の売買業務を専門に行っている。告訴人は、被告が他人を欺く意図を持って中国童子軍總会の登録した「中国童子軍」及びその他の商標を付した製品を販売しているとして警察に通報した。
原判決では1997年9月1日に出願された最先登録第320号の標章の商品は、被告の商品中にはない。その他の登録は何れも2000年に出願されており、被告が提出した商品目録は1993年から1994年に製造された製品を紹介しているとして、被告が1994年から当該商標を使用していることを認め、善意の使用であると認定して、被告を無罪とした。
この判決に対し、公訴人である台湾高雄地方検察署検察官は不服により上訴した。本判決でも原判決が維持され、また善意の先使用は非著名商標の場合に限り適用されるべきであるとの主張も認められなかった。
上訴は棄却された。

商標の合理的使用/善意の先使用の事例(台湾) 3

7.台湾高等法院94年度上易字第640号刑事判決(善意の先使用の継承)

被告の述べるところでは、その使用する商標は1984年9月1日付で取得された係争雑誌の名称権及び発行権を継承したこと関わるもので、当該雑誌は卓越文化公司が発行したものであることは、卓越雑誌の1984年9月1日創刊号の見返し頁で証明できる。その後、卓越文化公司は係争商標を登録した。卓越雑誌の名称又は商標が何れも卓越文化公司の所有であるかに関わりなく、被告は卓越文化公司が発行していた卓越雑誌を既に継承し、卓越文化公司自身の商標又は名称の使用を継承している。これは「他人」の商標についての善意の合理的使用であることには合致せず、被告が述べる他人の商標の合理的使用である云々は採用できない。

[補足説明]
被告は卓越世界文化公司の責任者。被告は1984年9月1日に発行された係争雑誌の名称権と発行権を発行者である卓越文化公司から継承した。
卓越文化公司は、係争に係る商標を1984年12月21日に1件及び1985年10月28日に2件登録出願(指定商品は何れも、書籍、新聞雑誌、絵画、写真、手形)し、登録を取得した。
しかしながら、当該商標の権利は本件の告訴人である博發公司が1998年7月4日に競売で取得して権利者となり、権利が侵害されているとして、被告を告訴した。
被告は告訴人の同意を得ずに2001年9月から「卓越世界 excellence world」誌を発行し、2003年1月からは「卓越 EXCELLENCE MONTHLY」と誌名を変えて雑誌を発行した。告訴人は、2001年9月24日及び2002年7月23日に被告に当該商標の権利者であることを通知している。
被告は、当該商標が登録前に使用されていた雑誌の継承者であり、善意且つ合理的に「卓越」を使用したと抗弁し、無罪を主張した。
原判決では、被告が告訴人の同意を得ずに同一商品に類似商標を使用したことは、関係する消費者に誤認混同を引き起こすおそれがあるとして、懲役6ヶ月若しくは罰金を科すと判決した。被告は上訴した。
本判決では、雑誌を継承したことにおいて、当該商標を知っていたことは明らかで、法律で規定される「他人の商標の登録出願日前に善意で~」の「他人の商標」には当たらないと認定した。そして、告訴人が商標権の権利者であることを通知した後も類似商標を使用して雑誌を発行したことを商標権の侵害と認め、原判決と同様の懲役6ヶ月若しくは罰金を科すと判決した。

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