台湾の知的財産案件審理法改正の概要

台湾の知的財産案件審理法改正の概要 4

台湾の知的財産案件審理法は、知的財産権の保護にかかる訴訟上のニーズに応えるため2007年に初めて公布され、2008年7月1日に、同日に創設された知的財産裁判所とともに正式に施行された。本法はこれまで三度の改正が行われたが、知的財産案件を専門、適正及び迅速に審理する訴訟制度の構築を目的として2023年に改めて全面的な法改正が行われた。今回の改正後の知的財産案件審理法は総則,知的財産民事事件手続き,知的財産刑事事件手続き,知的財産行政事件手続き,罰則および附則の六章からなり、その条文は計77条となる。今回の改正法は2023年8月30日からの施行となることが司法院により定められた。

今回の法改正の立法総解説では以下11項の改正要点が挙げられている:

  1. 司法の電子化の推進
  2. 立証の円滑化、審理効率化の促進
  3. 弁護士強制代理制度の拡大
  4. 専門家の審理参与の拡大
  5. 紛争の一回的解決及び裁判見解相違の回避
  6. 最高裁判所に知的財産案件審理専門の法廷及び部門を創設
  7. 営業秘密事件の専門的審判及び保護の向上
  8. 実務争議の解決、訴訟の紛争解決機能の強化
  9. 被害者の訴訟参与規定を新設
  10. 新旧法適用の過渡条項の修正
  11. その他

紙幅の関係上、本文書では以下4つの主題に絞って説明する。

  1. 弁護士強制代理制度
    今回の法改正の解説には「知的財産民事事件の高度な法律専門性を考慮し、当事者の権益の保護、審理効率化の促進のため、特定の類型の知的財産民事事件においては強制的に弁護士が代理しなければならないことを定める」と記されている。このため、法改正後に、専利法,商標法,著作権法,光ディスク管理条例,営業秘密法,集積回路の回路配置保護法,植物品種及び種苗法,公正取引法によって保護される知的財産の権益で生じた民事訴訟事件について、第一審が専利権,コンピュータプログラム著作権,営業秘密にかかわる訴訟でなく、かつ訴訟対象金額が第三審に上訴可能な額に達していない民事事件のみ訴訟代理人を弁護士に委任しなくともよく、その他の民事事件又は審級はすべて訴訟代理人を弁護士に委任しなければならない。
    弁護士強制代理制度を徹底するため、原則として、当事者本人が行う訴訟行為に効力は生じず、「訴訟代理人による訴訟行為でなければ効力は生じない」,「委任を受けた訴訟代理人が出廷しない場合、不出廷とみなす」ことを具体的に規定した。特許権にかかわる訴訟事件については、審判長が認めた場合、当事者は弁護士とあわせて弁理士にも委任することができる。弁護士強制代理の規定は参加人にも適用される。
    弁護士強制代理制度において弁護士報酬は訴訟又は手続き費用の一部であるが、弁理士の報酬は訴訟又は手続き費用に算入されない。また、参加人弁護士及び弁理士の報酬も訴訟又は手続き費用に算入されない。
  2. 査証制度の創設
    査証人を選任する制度は日本特許法の規定を参考して導入された。立法の解説には「新興テクノロジーや専門的な特許侵害訴訟において裁判所の真実見極めに寄与し、証拠が一方に偏り立証が困難となる問題を解決して当事者の訴訟上の攻防性武器を平等なものとするため、中立で専門知識をもつ専門家が現場で一定の法的強制力を具える証拠収集手続きを執行し、その専門的背景を基に裁判所の適正な判断の一助となる必要がある」とある。よって、法改正後、特許権侵害事件,コンピュータプログラム著作権や営業秘密侵害事件について、裁判所は当事者の申立てに応じて査証人を選任し、相手方又は第三者が所有する又は管理する書類や装置設備の査証を命ずることができる
    一方、査証人の公正中立性を確保する観点から、査証人は学歴、職歴、当事者や第三者又は事件との関係性を書面で開示しなければならず、また、査証人の忌避に関する規定も定められた。査証人は査証を実施するに際し、査証対象物の現場に立ち入って書類や装置設備に対して裁判所より許可を受けた査証措置をとることができるほか、査証を受ける者に対して質問をし、若しくは必要な書類の提示を求めることができる。査証を受ける第三者が正当な理由なく査証を拒絶する又は妨害する場合、裁判所は罰金を科すことができ、また、査証を受ける当事者が正当な理由なく査証を拒絶する又は妨害する場合、事情を勘案して、査証で立証されるべき事実に関する申立人の主張を真実と認めることができる。他方で、査証を受けた者の権益を確保する観点から、裁判所は査証報告書を受け取った後、これを査証を受けた者に送達し、査証を受けた者は査証報告書で触れられた営業秘密について査証報告書の全部又は一部を申立人に開示しないよう申し立てることができる。査証人は査証職務の執行にあたり査証を受ける者のプライバシーや営業秘密等の情報を知ることになるが、別の訴訟又は調査時には証言を拒否することができる。
  3. 知的財産局への意見聴取制度の創設
    訴訟において、当事者が争議の核心となる知的財産権に取消し,廃止の原因があると主張又は抗弁する場合、裁判所はその主張又は抗弁に理由があるか否かを自ら判断しなければならない。このため、裁判所と知的財産局が二重判断の枠組みを持ち、権利の有効性にかかわる争議で異なる見解が生じることがないように、法改正後、このようなケースでは裁判所が知的財産局に通知をし、知的財産局はその通知を受けると、前記知的財産権の取消し又は廃止の申立てを受理したかどうかを裁判所に通知しなければならない。これには司法審理と行政審査との間の情報交流制度を構築することで、権利の有効性にかかる判断で異なる見解が生じることを防止する狙いがある。
    特許権の有効性に争議が生じた場合において、特許権者がすでに知的財産局に訂正を申請している場合、若しくは不可抗力の事由により訂正を申請することができていないが訂正を申請する予定がある旨を裁判所に陳述した場合、裁判所は特許権範囲の訂正の合法性を自ら判断することができ、また、関連法令又は他の必要事項について知的財産局に意見を求めることもできる。
    法改正後は、知的財産局が後に確定する処分において特許権,商標権,品種権侵害事件の確定終局判決と異なる認定をした場合、当該判決に対して再審の訴えを起こすことができない。
  4. その他
    これまで、技術審査官が作成した報告書は裁判官が見解を求めた場合の内部参考意見で、外部に公開されることはなかったが、法改正後、裁判所は必要に応じて全部又は一部の内容を公開することができ、その中の特殊な専門知識について当事者に弁論の機会を与えてはじめて裁判の基礎とすることができる。

また、近年、知的財産局は「専利法一部条文改正草案」、「商標法一部条文改正草案」を立て続けに打ち出し、その中でも商標代理人資格と管理,「複審及び争議審議会」の設置,訴願手続きの併合,「複審訴訟」及び「争議訴訟」を、民事訴訟手続きを準用する双方対審制の特殊訴訟の類型に指定するなど救済手続き制度の改正草案を起案している。このため、司法院議会が当初起案した知的財産案件審理法の改正草案では、手続きに「複審」を導入し、第二章の知的財産民事事件手続きの後に「特許又は商標の複審及び争議事件手続き」の章の追加が見込まれていたが、前記専利法改正草案と前記商標法改正草案は2023年3月に行政院議会を通過したばかりで、まだ立法審議が行われていないため、知的財産案件審理法の今回の法改正では救済手続きに関する草案内容が全て削除された。今後はこれらの動向も注視する必要がある。

台湾の知的財産案件審理法改正の概要 5
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