インターネットのブラウザにキーワードに連動して広告が掲載される検索連動型広告(リスティング広告)において、キーワードが登録商標の場合、商標権の侵害に当たるかに関する、知的財産裁判所の上訴審の判決要旨が台湾、知的財産局ウェブサイトの2015年5月5日付電子報に掲載された。以下は、電子報に掲載された判決要旨の訳文である。主文部分については判決書から抜粋して入れた。
なお、上訴の前提となる知的財産裁判所第一審の内容をまとめると下記の通りである。
智慧財産法院民事判決 101年度民商訴字第22号
原告:幸福空間有限公司 (商標登録第1316081号「幸福空間」の所有権者)
被告:アメリカGoogle International LLC 台湾支社
主文:原告の訴え及び仮執行の申立の何れも棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。
原告の主張
アメリカGoogle International LLC (以下、グーグル社)は権利期間内にある原告の登録商標「幸福空間」を検索連動型広告のキーワードとして第三者に販売した。原告は2回内容証明郵便をグーグル社に送付してキーワードの削除及び関連広告へのリンク停止を要求した。
グーグル社は応じず、更に3社に当該キーワードを販売した。
被告の行為はキーワード広告の販売である。キーワードを購入した会社は原告との間に一定の提携関係があると誤認させ、改正前の商標法第29条第2項第2号 (類似の商品又は役務に登録商標と同一商標を使用し、関係消費者が誤認混同するおそれがある場合は、商標権者の同意を取得しなければならない)に違反する。
キーワード広告は、原告の経営努力による営業上の名声にフリーライドするものであり、公平交易法第24条の規定(事業者は、取引の秩序に影響を及ぼすに足りる欺瞞又は明らかに公平を失する行為をしてはならない)に違反する。
被告は原告からの通告を受けても、キーワード広告を削除しなかったため、民法に基づき損害賠償の責任を負わなければならない。
原告の声明
(1) 被告が「幸福空間」をキーワード広告として販売することを禁止する。
(2) 被告は原告に新台湾ドル(NT$)100万元及び起訴状謄本送達の翌日から全額支払日まで、年利率100分の5として計算した利息を支払わなければならない。
(3) 訴訟費用は被告の負担とする。
(4) 原告は担保を提供し、仮執行の宣言を申し立てる。
被告の抗弁
被告が経営するキーワード広告は、検索画面に広告スペースを提供するものである。広告主が選択したキーワードをインターネット使用者が入力すると、検索画面に広告が表示される。被告の業務は検索画面の広告スペースを販売するもので、原告の係争商標を第三者に販売する行為ではない。明らかに業務の性質を誤解している。
係争広告の契約は被告が許諾した業者と広告主との間で交わされたものである。許諾業者は被告の監督を受けるものではなく、また被告の雇用人ではない。
被告の経営するキーワード広告業務は、商標法上の使用行為ではなく、商標法第29条第2項第2号に違反しない。係争広告内には「幸福空間」の文字が明示されておらず、商標権侵害のおそれはない。
キーワード購入者の広告中には「幸福空間」の文字が説明的に使用されているだけで、会社名称又は出所を示す一般的な商標の使われ方はされていない。取引秩序又は公平を失することはなく、公平交易法に違反しない。
被告の声明
(1) 原告の訴えを棄却する。
(2) 訴訟費用は原告の負担とする。
(3) 不利な判決を受けた場合は、被告は担保を提供するので仮執行免除を宣言してほしい。
知的財産裁判所の判断
被告には商標の使用行為がない。商標の使用とは(1)市場で商品又は役務を販売することを目的とする、(2)積極的な商標の表示、(3)消費者に商標であると認識させることを要件とする。更に商標は商品又は役務を表彰する標識である。
検索画面には入力したキーワードと係争広告が同一画面に現れるが、キーワードを入力したのはインターネット使用者で被告ではない。被告は関わっていない。
被告の行為は検索結果画面に広告スペースを提供し、広告主の広告を掲載する行為であって、積極的に商標を表示しておらず、また、商品若しくは役務の標識としていない。商標の使用を構成しているとの原告の主張は採用できない。
キーワード広告購入者の広告では、「幸福空間」は説明的な言葉として使用されており、会社名称又はその役務の出所を示すものではなく、原告の係争商標を掲載しているとの主張は採用できない。
係争広告の右上には何れも広告であるとの表示があり、インターネット使用者に検索結果ではないことを告知している。原告が主張する消費者が誤認混同を生じるとの主張は採用できない。
被告には商標の使用行為はなく、消費者に誤認混同を生じさせない。商標法に規定される商標権の侵害はなく、公平交易法にも違反しない。
原告の訴えには理由がなく、主文の通り判決する。
(判決書日付:2013年1月24日)
上述の判決を受けて、原告である商標登録権者は上訴した。上訴審では原告の訴えの一部が認められた。以下が上訴審の判決要旨である。
知的財産裁判所民事判決 102年度民商上字第8号
上 訴 人:幸福空間有限公司
被上訴人:アメリカGoogle International LLC 台湾支社
主文
原判決でなされた棄却において、上訴人の後段第2、3項の部分、及び当該部
分の仮執行の申立、並びに訴訟費用の裁定は何れも破棄する。
被上訴人は、登録第01316081号「幸福空間」商標をキーワード広告にできない。
被上訴人は、新台湾ドル(NT$)67,146元、及び2012年2月2日から全額支払日までについて年利率100分の5として利息を計算し上訴人に支払わなければならない。
そのほかの上訴については棄却する。
第一、二審訴訟費用は、被上訴人が3分の2を負担し、残りは上訴人の負担とする。
本判決第2項は、上訴人が新台湾ドル55万元を事前に被上訴人に担保として提供した後に仮執行することができる;但し、被上訴人が仮執行の手続実施前に新台湾ドル165万元を事前に上訴人に担保として提供した場合は、仮執行を免除することができる。
本判決第3項は仮執行できる;但し、被上訴人が仮執行の手続実施前に新台湾ドル67,146元を事前に上訴人に担保として提供した場合は、仮執行を免除することができる。
電子報掲載日:2015年5月5日
登録第01316081号
上訴人は登録第01316081号「幸福空間」商標の所有権者である。前記商標は商標権利期間内にあるが、被上訴人であるアメリカのGoogle International LLCの台湾支社は、ホームページ検索エンジンにおいて上訴人の係争商標を訴外人の禾林室內設計工程有限公司にキーワード広告として販売し、上訴人会社が特に採用して名称及び商標とした「幸福空間」を検索する消費者を、禾林公司のウェブサイトへ誘導することを意図した。上訴人は2011年10月及び11月の2回、被上訴人に前記キーワード及び関連広告へのリンクを早急に削除するよう内容証明郵便を発送したが、被上訴人は何れについても取り合わず、前記の係争広告を存続した。
本件上訴人の主張では、被上訴人及び広告主には商標法第68条第1、2号における商標権侵害行為があり、侵害されたのは登録商標「幸福空間」である。「幸福空間」はデザイン化されていない中国語の楷書文字で、家具等の商品及び室内設計等の役務を指定している。係争商標は2008年6月16日に登録が公告された後、積極的な販売に使用され、更にメディアで広告、宣伝した結果、知的財産局から著名商標と認定されており、被上訴人に見解の相違はない。
商標の使用は3つの要件を満足しなければならない:一、使用者は商品又は役務の販売目的において使用する;二、商標を使用する行為を必要とする;三、関係消費者にそれが商標であると認識させるに足ることを必要とする。調べたところ、被上訴人は広告業者に転売し、広告業者は広告主に販売するキーワード広告業務である。被上訴人は「幸福空間」の文字でリンクを指令するよう内部でプログラムし、消費者がGoogle検索エンジンでキーワード「幸福空間」を検索すると、検索画面の広告スペースに当該キーワードを選定した広告主が作成したキャッチコピーを表示できる。このため、検索結果画面には、検索欄に入力したキーワードと係争広告が同一画面に表示されるが、当該キーワードはインターネット使用者が入力したもので、被上訴人又は広告主が入力したものではない。被上訴人が検索結果画面に広告スペースを提供し、広告主が広告を掲載する行為は、いかなる商標をも積極的に表示するものではなく、且つ、被上訴人は室内設計又は装飾等の業務に従事していないこともまた上訴人に見解の相違はない。被上訴人には係争商標でその商品又は役務を表彰し販売する行為はなく、また各広告主の広告のURL、文章も係争商標の文字を各広告主の商品又は役務を表彰する標識として用いていない。インターネット使用者がキーワード「幸福空間」を入力して検索すると、検索画面の広告スペースに広告が現れるのが目に入るが、当該広告に係争商標を何らか表示する意図があるか知りようはなく、被上訴人が「幸福空間」の文字でリンクを指令するよう内部でプログラムしたのは内部の目に見えない使用であり、外在的な形のある使用ではない。何れも関係消費者にそれが商標であると認識させることはできず、前述の商標使用の3要件及び商標法第68条第1号「同一商品又は役務における販売を目的として、登録商標と同一の商標を使用する」、第2号「類似の商品又は役務における販売を目的として、登録商標と同一の商標を使用する」という構成要件の事実に合致しない。
上訴人及び○○○教授の法律意見書及び当法廷での証言は、消費者がキーワード「幸福空間」を入力し検索後、検索されたホームページ上の広告主のキャッチコピーを上訴人が所有するものと誤認し、誤認混同が生じるおそれがあり得ることは、係争商標の使用があるからこそ消費者に誤認混同を生じさせるおそれがあると逆に推論できる等である。しかし、商標法第68条における「関係消費者が誤認混同するおそれ」とは、関連消費者が実際の取引の際に誤認混同する可能性があるか否かを重視する。消費者が「幸福空間」のキーワードを入力し検索後、検索されたホームページ上の広告主のキャッチコピーを上訴人が所有するものと誤認し、クリックして閲覧する可能性は当然ある(これはまた、消費者による広告主のウェブサイト閲覧を増加させ、取引の機会を増大させ、又はウェブサイトの知名度を拡大するという各広告主の広告目的によるものである。そのため判決内容では別に不正競争の問題に言及している)。しかしながら、消費者が検索されたホームページの広告を誤認する可能性を持つことは、アメリカの学者が命名した「initial interest confusion(当初の関心による混同)」であり、即ち、検索されたホームページの広告を上訴人所有の広告のURLと混同して誤認することである。しかし、消費者がクリックして当該URLのウェブサイトを閲覧しても、当該広告主のウェブサイトのホームページには係争商標が使用されておらず、関連する文字が使用されていても、何れも説明的な使用で、商標としての使用ではなく、且つ、会社名称が明示され、その所有する商標等の識別に役立つ表示があるため、消費者は上訴人所有のウェブサイトのホームページであると誤認することはなく、当該広告主のウェブサイトのホームページに掲載された商品/役務を上訴人会社が所有するものであると誤認混同するおそれはない。従って、検索されたホームページの広告の誤認という「initial interest confusion」は、商標法第68条における「誤認混同を生じるおそれ」ではない。よって、上訴人及び○○○教授の前記見解は採用できない。
判決文全文:智慧財產法院102年度民商上字第8號民事判決
