同意を得ない他人がその物品を製造し、販売の申し出等を行うことを禁ずる特許法第56条を根拠として起こされた裁判の判決要旨が、知的財産局の電子報に掲載された。原告は被告の商品カタログ上の製品(ミシン)には自己の実用新案特許に係る部品が含まれており権利の侵害であると主張して、損害賠償を求めた。被告は台湾の会社で、原告の代表者と被告の代表者が共同出資して設立し、後に原告の代表者が同社を離れたとの経緯があり、原告は被告の代表者にも連帯責任による賠償を求めた。本件で原告は、証拠として商品カタログ及びミシン等を提出したが、ミシンは原告が中国で入手したものである。被告は、製品は同社の中国における関連会社が製造し、侵害したとされる部品は販売を委託した会社(文力公司)が後から取り付けたと主張した。以下は電子報に掲載された判決要旨の訳文である。
電子報掲載日:2010年5月5日
知的財産裁判所
民事判決 (98、民専訴、85)
判決書の日付:2010年2月5日
関連条文:特許法第56条、民法第154条第2項
原告:海榮企業有限公司
被告:星菱縫機股份有限公司、 代表者 乙○○ 判決の摘要 (一) 両当事者の主張
- 原告の主張:原告は、「ファスナー縫合機の送り出し機構と押さえ機構の伝動装置」等の4件の実用新案特許を取得している。原告が入手した被告の「SL-760Series」工業用ミシン商品カタログ、並びに中国で購入した当該機1台と上述4件のクレームを比較対照した結果、何れも当該4件のクレームの範囲内のもので、明らかに原告の特許権を侵害している。
被告の主張:係争に係る製品の部品は文力公司が顧客の要望に応じて取り付けたものであり、星菱縫紉機(寧波 [ニンポー:中国の都市])有限公司又は被告が製造或いは提供したものではない。証拠3の部品リスト及び部品説明はカタログではなく、売価も表示されていない。2種類の部品が図示されているとしても、申し出の誘因となる程度で、販売の申し出ではない。
(二) 主要な争点
被告乙○○は被告星菱縫機股份有限公司の責任者であり、且つ原告が提供した商品カタログは真正品であるとの事実については原告、被告の双方に争いはない。また、原告が提出した特許証書のコピー4件、侵害品の写真、被告が提出した文力公司のウェブサイトの資料、被告の商品カタログは証拠として真実であると信じられる。但し、原告が被告は特許権を侵害していると主張し、台湾の特許法の規定に基づき損害賠償を請求している部分について、被告は否認し且つ前述の通りの実情を申し立て抗弁している。従って本件は、被告が原告の特許権を侵害したか、及び台湾の特許法に基づいて原告は被告に損害賠償を請求できるかについて先ず調べなければならない。
(三) 判決理由 1.現特許法による保護は、属地主義を採用している。即ち、特許権は取得した区域内でのみ有効であって、その他の区域には及ばない。従って、各区域内毎に出願しなければならず、審査を経た後に特許権の保護を取得することができる。本件で、原告が中国で購入した型番「SL-760」の工業用ミシンの一部の部品が、原告が台湾の特許法に基づき出願し、取得した特許権を侵害しているとの主張について、この部分は事実であり、被告は否認していない。しかしながら、当該品は台湾において製造、販売されたものではなく、原告が述べている台湾の特許権を侵害する行為を構成していないと抗弁している。また原告は、本件特許の発明を中国に出願し、審査後特許権の保護を取得したと提示していない。このため、係争に係る原告の発明は未だ中国において特許権の保護を享受しておらず、原告の権利を侵害したと言うことはできない。 - 民法第154条第2項の規定:「売買する商品を陳列する場合は申し出と見なす。但し価格表の送付は申し出とは見なさない。」原告は、被告の会社がインターネット上に本係争の型番「SL-760」の工業用ミシンを掲載したことは、特許法第56条に規定される販売の申し出に属し、原告の特許権を侵害したと主張した。原告が提出したインターネット上の資料(証拠4参照)を調べたが、ミシンの写真に原告の特許を侵害した部品が顕示されているか否かに関わらず、定価又は売価の提案はないので、前記の規定から商品の価格表とは認められず、販売の申し出と認めることはできない。従って、被告が販売の申し出をして原告の特許権を侵害したとの原告の主張を採用するのは困難である。(以上)
特許法第56条
物の特許権者は、この法律に別段の定めがある場合を除き、その同意を得ないで他人がその物を製造し、販売の申し出をし、販売し、使用し、又は上述の目的のために輸入する行為を排除する権利を専有する。
②方法の特許権者は、この法律に別段の定めがある場合を除き、その同意を得ないで他人がその方法を使用し、及びその方法で直接に製造された物を使用し、販売の申し出をし、販売し、又は上述の目的のために輸入する行為を排除する権利を専有する。
③発明特許権の範囲は、明細書に記載された特許請求の範囲を基準とし、特許請求の範囲の解釈においては、発明の説明及び図面を考慮に入れることができる。
