台湾の知的財産局ウェブサイトの、本年11月5日付電子報に、台湾と中国における商標冒認登録について、商標法の条文比較に関する考察が掲載された。
以下はその訳文である。
電子報掲載日:2012年11月5日
契約がある、地理的に近接している、又は以前提携関係にあり、被冒認登録人の商標が登録されていない状況にあることを知っていたため、先に登録出願した場合に、台湾商標法第30条第1項第12号及び中国商標法第31条後段に規定される法律条文が適用される構成要件について、簡単な分析と説明は以下の通りである:
- 台湾商標法
商標法第30条第1項第12号の規定:同一又は類似の商品又は役務について先使用である他人の商標と同一又は類似であり、且つ、出願人が当該他人との契約、地縁、業務上の取引又はその他の関係により、当該他人の商標の存在を知り、意図的に模倣し、登録出願したものは登録できない。但し、当該他人の同意を得て登録出願した場合は、この限りでない。この法律条文が適用される構成要件については、2012年6月5日発行の知的財産権電子報第72期、「代理人又は代表者による商標の冒認登録を禁止する条文が適用される要件についての簡単な分析」の内容を参考にされたい。[本訳文の後に、第72期の訳文を掲載]
- 中国商標法
商標法第31条後段の規定:商標の登録出願は、他人の既に使用しており、且つ一定の影響力を有する商標を不当な手段で先取りして登録するものであってはならない。この法律条文が適用される構成要件には、以下が含まれる:- 係争商標の出願日以前に他人の商標が既に使用されており、且つ一定の影響力を有している;
- 係争商標と他人の商標が同一又は類似している;
- 係争商標の指定商品/役務と他人が商標を使用している商品/役務が原則的に同一又は類似している;
- 係争商標の出願人に悪意がある。
以上の要件を具備していれば、先使用であり且つ一定の影響力を有する商標の所有者又は利害関係人は、係争商標の登録査定又は登録の取消を請求できる。
- 前述した他人の先使用商標の冒認登録を禁止する両国の条文の規定を比較すると、両者は何れも上述(2)、(3)の商標が同一又は類似する及び商品若しくは役務が同一又は類似するという二つの要件が一致しているが、その他の点については以下の通りである:
- 先使用商標が知名度を有していなければならないか否かが異なる
台湾では、先使用の事実があることを証明するのみで、先使用商標に一定の知名度に達する使用は要求していない。先使用に加えて一定の地域範囲内で関連する公衆に知られている商標であることを前提としている中国と比較し、知名度と使用地域の範囲の適用基準は馳名商標の認定基準より低い。 - 先使用商標の国内外の地域の制限が異なる
台湾の商標法第30条第1項第12号の規定は、パリ条約第6条の7の規定の趣旨を参考にしている。このため「先使用商標」とは、国内における先使用の商標に限られず、国外で先使用された商標も含まれ、代表又は代理関係にある者による悪意に基づく冒認登録の行為を阻止する。中国の商標法第31条後段では、「中国大陸地区において既に使用されている」と限定しており、加えて一定の地域範囲内で関連する公衆に知られている商標であるとしている。 - 意図的な模倣又は不正な手段による冒認登録
台湾の商標法の規定では「意図的に模倣して登録申請した」との一文があるが、意図的な模倣をその主観的要件として追加したものではなく、「契約、地縁、業務上の取引又はその他の関係により、他人の商標の存在を知っていたもの」等の客観的に存在する事実及び証拠を重視して判断する。中国の商標法で強調されているのは「不正な手段による冒認登録」で、他人と同業である関係を利用する、又は他人と地理的に近接していることを利用する、又は他人と以前提携関係にあったことを利用することを含む、不合理又は非合法な方法を利用して、出願人が他人の既に使用しているが登録出願していない商標を剽窃し、自己の名義で中国の商標局に登録出願することを指す。両国とも客観的に存在する事実及び証拠による判断を重視している。
- 先使用商標が知名度を有していなければならないか否かが異なる
以上を比較すると、中国商標法第31条後段の規定は、先使用商標が中国で既に使用され、一定の影響を有することを適用の前提としており、台湾商標法第30条第1項第12号の規定に較べ適用の基準点が高い。但し、中国の商標実務では、悪意に基づく冒認登録の行為に対して、中国商標法第10条第1項第8号の社会主義の道徳、慣習を害する、又はその他の悪影響を及ぼす標識は商標として使用できないとの規定に基づき、先使用者が異議申立又は争議手続により、冒認登録商標を取消し、商標権益を守ることができる。
電子報 第72期(2012年6月5日)
代理人又は代表者による商標の冒認登録を禁止する条文が適用される要件についての簡単な分析
台湾、中国における、代理人又は代表者の商標冒認登録禁止に関する法律条文が適用される構成要件について、簡単な分析と説明は以下の通りである:
- 台湾商標法
現行商標法第23条第1項第14号(訳注:旧商標法を指す。現行商標法は2012年7月1日施行)の規定:同一又は類似の商品又は役務について先使用である他人の商標と同一又は類似であり、且つ、出願人が当該他人との契約、地縁、業務上の取引又はその他の関係により、当該他人の商標の存在を知っていたものは登録できない。但し、当該他人の同意を得て登録出願した場合は、この限りでない。この法律条文が適用される構成要件には以下が含まれる:
(1) 係争商標と先使用商標が同一又は類似
(2) 係争商標と先使用商標の指定商品又は役務が同一又は類似
(3) 商標の先使用の事実
「先使用」の商標とは、「登録」されたもの又は「著名商標」に限定されない。また国内における先使用の商標に限定されず、国外において先使用された商標も含む。これにより、悪意に基づく冒認登録を防止するという立法趣旨に合致する。
(4) 他人の商標の存在を知り、剽窃し、商標を冒認登録した事実の類型
契約、地縁、業務上の取引又はその他の関係により、他人の商標の存在を知り、剽窃し、商標を冒認登録した事実。「その他の関係」については、同条文の例示規定を参酌しなければならず、それにより、立法の真の意図に合致する。上述規定の「その他の関係」とは、出願人と他人との間に「契約、地縁、業務上の取引」等に類似した関係があって、他人の商標を知っていたことを指し、更に冒認登録したことをいう。業務上の取引が無くても、国内で関連する又は競合する同業者が、経営する業務の関係で他人が先使用している商標の存在を知っている場合も、本条号の「その他の関係」に属する(詳しくは、知的財産裁判所2010年度行商訴字第30、32号判決主旨及び最高行政裁判所2009年度判字第321号判決を参照のこと)。
商標権者と当該他人との間に契約、地縁、業務上の取引又はその他の関係があり、他人の商標の存在を知っていたか否かの判断は、具体的な個別案件の客観的事実、証拠で判断しなければならない。関連する事実、証拠があり、出願人が他人の商標を知っていたために冒認登録したことが確実に認められる場合は、本号の適用を認めなければならない。また、出願人は契約、地縁、業務上の取引関係によって、直接的に先使用商標の存在を知るということがなくても、出願人が間接的に先商標の存在を知り、悪意で剽窃したことを客観的な証拠に基づき証明できれば、商標法の保護は受けない(詳しくは、知的財産裁判所2010年度行商訴字第110号判決主旨を参照のこと)。
新商標法の条文において、「意図的に模倣して登録出願した場合は、登録できない」との語が追加されたが、これは単に立法の趣旨を明示したものであって、意図的な模倣を主観的な要件として追加するものではなく、これによってその適用範囲が減縮されることはない。出願人が模倣を意図したか否かは、当然、契約、地縁、業務上の取引又はその他の客観的に存在する事実及び証拠を斟酌し、論理法則及び経験則に基づき判断しなければならない。
- 中国商標法
中国商標法第15条の規定:権限を付与されていない代理人又は代表者が自己の名義で、被代理人又は被代表者の商標を登録し、被代理人又は被代表者が異議を申し立てた場合は登録を付与せず、且つ使用を禁止する。この法律条文が適用される構成要件には以下が含まれる:
(1) 係争商標と先使用商標が同一又は類似
(2) 係争商標と先使用商標の指定商品又は役務が同一又は類似
(3) 被代理人又は被代表人の商標は中国において先使用の事実がある
代理人及び代表者とは、広義の解釈を採用し、民法上の代理人と代表者(商標の代理人と商標の代表者を含む)だけでなく、販売の代理又は販売の代表関係における代理人及び代表者(販売代理店、総販売店、独占販売店、総代理店、独占代理店等、販売代理関係を意味する代理人又は代表者)を含む。代表者は被代表者に従属する特定の身分を有し、職務を執行して被代表者の商標を知ることができる個人を指し、法定代表者、取締役、監査役、経理、共同経営者等を含む。また、代理関係終結後に、代理人が被代理人の商標を登録出願した場合も本条の規定を適用し、登録を付与しないまたは商標の登録を取消すことができる。被代理人又は被代表者の商標は「登録」されている、「一定の影響がある」又は「馳名商標」であることを前提としないが、中国内で先使用の事実があることを必要とする。
(4) 係争商標の登録出願を代理人若しくは代表者が自分の名義で行った場合、又は代理人若しくは代表者ではない名義で登録出願したが登録出願人と代理人若しくは代表者が結託、共謀したことを証明する証拠がある場合は、何れも本条の規定を適用し、登録を付与しない又は係争商標の登録を取消す判定を下すことができる。
最後に、台湾と中国の商標冒認登録に対する規定を比較すると、最大の相違点は被冒認登録商標所有者の制約、並びに商標が先使用された地域範囲の認定である。台湾の商標法は「契約、地縁、業務上の取引又はその他の関係があるため、他人の商標の存在を知っていたもの」を要件として重視し判断に用いており、その適用範囲は中国商標法第15条より明らかに広く、市場の不正競争から守り、商工企業の正常な発展を促進するという趣旨が明確である。
