人工知能(artificial intelligence, AI)は、近年様々な分野に迅速に普及していが、人工知能自体に厳密な定義はなく、一般的な概念としては、アルゴリズムを介して高速演算能力を備え、そして膨大なデータベース、ディープラーニングなどの各種特質を組み合わせたもので、各応用分野において迅速かつ優れた分析、判断等の補助機能を発揮することが可能となる。しかし、人間に似た「創意」アルゴリズムを人工知能に組み入れた場合、特許を出願することができるのか?法律上これを保護すべきかどうか?といった新しい課題が生じる。2021年に台湾の知的財産及び商事裁判所においてこれに関する2件の事例があったので参考としたい。
- 事件の経緯
DABUSはスティーブン・テイラー(Stephen L. Thaler)氏によって開発された人工知能である。2019年、スティーブン・テイラー氏は自身を出願人として台湾知的財産局に2件の発明特許を出願したが、願書には発明者として人工知能DABUS(device for the autonomous bootstrapping of unified sentience)と記入されていたため、知的財産局は自然人を発明者とするよう求めたが、出願人は補正しなかったため、知的財産局はこれら出願を不受理とする処分を下した。この2件の出願については訴願が提起されたが棄却となり、その後、知的財産及び商事裁判所の行政訴訟においても棄却判決を受けた。
| 出願番号 | 108140133 | 108137438 |
|---|---|---|
| 発明の名称 | 注意を引く装置および方法 | 食物又は飲料用容器 |
| Devices and methods for attracting enhanced attention | Food container | |
| 出願日 | 2019.11.05 | 2019.10.17 |
| 処分日 | 2020.06.29 | 2020.06.29 |
| 訴願番号 | 經訴字第10906311620號 | 經訴字第10906311370号 |
| 訴願決定日 | 2020.12.02 | 2020.12.03 |
| 行政訴訟番号 | 110年行専訴字第3号 | 110年行専訴字第4号 |
| 行政訴訟判決日 | 2021.08.19 | 2021.10.6 |
- 出願人の主張
出願人(原告)の主張は、現行法には発明者が自然人に限られるという明文規定がないことを主な根拠としている。- 原告は、願書の記入欄を発明者が人工知能であることも含め詳細かつ誠実に記入しており、被告(知的財産局)がこれを受理する際に、法律上、発明者が自然人であるか否かを審査する手続きの定めがない以上、被告には本願を受理しない法的根拠が一切ない。
- 台湾著作権法では「法人」が著作者になったり、著作者人格権や氏名表示権を有したりすることもできるにもかかわらず、専利法において非自然人を発明者とすることを認めないのは不条理であり、かつ専利法には人工知能を発明者とすることを認めないという制限はない。被告が挙げた専利施行細則及び専利審査基準の規定は、法律にない制限を追加するものであり、法律の優位及び法律の保留原則に反する。
- 本件発明は多くの国*で出願及び係争手続きがとられたが、その多くの国では専利法において発明者は自然人でなければならないことが明確に規定されていたために手続き上阻止された。しかし台湾専利法には発明者が自然人でなければならないという規定がなく、もし自ら制限を課すようなことがあれば国際的な革新をリードする機を逃すことになりかねない。
- 裁判所の立場(知的財産及び商事裁判所110年行専訴字第3号)
2件の判決では、発明者の権利能力と氏名表示権という観点から、発明者は自然人でなければならないと認定された。知的財産及び商事裁判所110年行専訴字第3号の判決理由の要約は以下のとおり:- 創作とは人間の知的活動による成果の総称であり、科学テクノロジー及び産業テクノロジーの研究・開発を奨励するために、各創作内容に実質的に貢献した人に特許権という形で独占権による保護を一定期間与えることで革新的発展を促進し、また、発明者、実用新案考案者、意匠創作者又はその譲受人、承継人だけが専利出願人になることができると明文規定されている。
- 専利法条項釈義の専利法第5条に関する説明には、法人の研究・開発作業は自然人によって行われ、発明者の氏名表示権は人格権の一種であるため、発明者は自然人でなければならない、と述べられている。また、専利審査基準第1篇第1-2-1にも、発明者は自然人でなければならないと明記されている。つまり、現行法ではその解釈上、発明者は自然人でなければならない。
- DABUSが中華民国の法律に基づいて設立された法人でなく、自然人でもないことは、原告訴訟代理人自らも認めるところである。このため、人工知能DABUSは中華民国の法律上「物」と見なされ、これは権利の客体にあたり、権利の主体にはなり得ず、権利能力と資格を享受することができないため、発明者となる自然人が欠如した状況において、これを不受理とした原処分は違法でないと認められる。
また、知的財産及び商事裁判所110年行専訴字第4号の判決理由において以下のとおり更に明確に指摘されている:
人工知能システムには、発明を完成するために知的創作に関与する自主的な意識又は知恵がないことから、特許による保護を受けることを目的として創作意欲が喚起されることはなく、権利の主体として、実際の創作を特許出願権者の立場をもって他者に移転することもできない。また、いわゆる人工知能システムが発明者である所有権者又は所有者も、専利法第5条第2項の特許出願権者の要件に合致しない。
- 省思
産業、文化、経済などをはじめとする現代社会の様々な活動は、人工知能の発展により多くの転換や影響がもたらされた。上述したケースでは人工知能は発明者と認められなかったが、人工知能の「知能」という名が、ツールという枠を超えて創意を生む主体となり保護を受けることができるようになるのか非常に興味深い。一方で、人工知能が権利の主体となる可能性があるならば、人工知能とその創作者との間の権利義務関係はどうなるのかという課題が残る。
*本件はオーストラリア、EU、イギリス、南アフリカなど多くの国で特許出願されている。そのうち、南アフリカでは実体審査が採用されていないために2021年7月に特許査定されたが、EU、イギリス及びアメリカの特許庁では拒絶査定され、オーストラリアでは当初特許庁により拒絶査定されたものの、オーストラリア連邦裁判所がその拒絶査定を覆し、現在係争中である。
